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貸し駐車場に関する相続税の取扱いについて

2019-08-17(土) 17:49:57

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未利用の土地を相続した場合や,誰も居住していない居住用不動産を相続した場合には,そのままではもったいないですから土地の有効活用を検討するものの,賃貸用建物を建築して賃貸事業を行うほどの事業リスクは負いたくない,というケースは意外と多いです。

 

このような場合には貸し駐車場としての土地活用が有効です。そこで,今回は貸し駐車場に関する相続税の取扱いを概観します。

 

貸し駐車場にはさまざまな形態があり,どの形態を選択するかはその土地の場所,地積,形状,投下できる費用等を総合勘案して決定することになりますが,選択した形態によって相続税における財産評価額及び小規模宅地等の特例の適用の有無に違いがあります。

 

駐車場の形態としては,おおよそ次の4つが考えられます。

  1. 月極駐車場(アスファルト舗装等)
  2. 月極駐車場(青空駐車場)
  3. コインパーキングを自営する。
  4. コインパーキング業者に賃貸する。

 

財産評価について

それぞれの形態における土地の財産評価ですが,上記1から3は,いずれもその土地の所有者が自ら貸し駐車場として利用していることになりますので,更地と同様にその土地の自用地としての価額により評価します。

 

貸地ではなく自用地として評価するのは,土地の所有者が,その土地をそのままの状態で(又は土地に設備を施して)貸し駐車場を経営することは,その土地で一定の期間,自動車を保管することを引き受けることであって,このような自動車を保管することを目的とする契約は,土地の利用そのものを目的とした賃貸借契約とは本質的に異なる権利関係であり,この場合の駐車場の利用権は,その契約期間に関係なく,その土地自体に及ぶものではないと考えられるためです。

 

上記4は,コインパーキング業者に土地を貸し,当該業者が貸し駐車場を経営しているケースですが,この場合の権利関係は土地の賃貸借契約に該当しますので,その土地の自用地としての価額から,賃借権の価額を控除した金額によって評価します。

 

この場合における控除する賃借権の価額は,おおむね次のように評価します。

自用地としての価額 × 次の区分に応じ次の割合

賃借権の残存期間05年以下・・・・・・2.5%

賃借権の残存期間05年超10年以下・・・5%

賃借権の残存期間10年超15年以下・・・7.5%

賃借権の残存期間15年超・・・・・・・10%

 

小規模宅地等の特例について

小規模宅地等の特例は,被相続人が所有していた自宅敷地や事業用土地の評価額を減額してくれる特例です。

 

貸し駐車場に対して考え得る小規模宅地等の特例は,特定事業用宅地等としての80%減額か,貸付事業用宅地等としての50%減額かのいずれかですが,大前提として,駐車場業は特定事業用宅地等に該当する「事業」から除かれており,その規模,設備の状況及び営業形態等を問わないこととなっています。

よって,貸し駐車場が特定事業用宅地等に該当することはありません。

 

次に,小規模宅地等の特例の対象となる宅地等は,建物又は構築物の敷地となっている必要がありますから,アスファルト舗装や砂利敷き等の設備を有する必要があります。

そうしますと,上記1から4のうち,2の青空駐車場のみが小規模宅地等の特例の適用が無いということになり,他は貸付事業用宅地等としての50%減額が適用されます(面積制限有り)。

 

このように,貸し駐車場の形態によっては財産評価や小規模宅地等の特例の適用の有無に違いがあります。

貸し駐車場を始めるのはそれほど難しくないと思われますが,費用をかけずにロープと車止めだけで済ましますと,小規模宅地等の特例が適用されず,相続税におけるその影響額は小さくありませんので注意が必要です。

 

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税務弘報に寄稿しました。

2019-07-08(月) 22:11:55

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税務弘報の2019年8月号に寄稿しました。

テーマは,財産評価と小規模宅地等の特例を踏まえて概観する「地主の土地活用に潜む税務リスク」です。

20190708

 

 

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家族信託(≒民事信託)の概要

2019-07-04(木) 15:11:07

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2019年6月18日,政府は認知症施策推進大綱を閣議決定しました。

もはや認知症はだれもがなりうるものであり,多くの人にとって身近なものとなっていることは間違いありません。2025年には最大730万人に達するという九州大学の推計もあります。

今回は,ここ数年じわじわと普及してきた認知症対策として有効な「家族信託」の概要をご説明します。

 

認知症とは判断能力が低下し,日常生活に支障をきたす状態のことをいいますが,認知症と診断されますと,例えば次のようなことができなくなります。

・所有している不動産を売却すること。

・不動産を購入すること。

・銀行からお金を借りること。

・銀行口座からまとまったお金を引き出すこと。

つまり,相続対策はほぼできなくなります。

 

判断能力が低下した人を支援する制度として,2000年に施行された成年後見制度がありますが,成年後見制度(任意後見含む)は次のようなデメリットがあり,財産管理という観点からはあまりお勧めできません。

・裁判所が後見人を選任するため,6割~7割の確率で第三者の後見人(弁護士や司法書士等)がつく。

・全く見ず知らずの人が財産を管理することになり,しかも報酬が発生する(最低でも月額2万円前後)。

・裁判所の監督下で財産管理が行われるため,不動産の売却や購入が事実上できなくなる。

つまり,こちらも相続対策がほぼできなくなります。

 

 

そこで,最近注目されているのが家族信託です。

家族信託であれば,裁判所が関与することなく,信託契約の内容に従い受託者の判断で制約なく財産管理を行うことができます。

信託といいますととても難しいことのように聞こえるかもしれませんが,実務で行われる家族信託は次のようにとてもシンプルです。

登場人物は2人だけ

・委託者=財産の所有者=父親

・受託者=財産を託される人=息子

・受益者=利益を受け取る人=父親

 

ものすごく簡単に説明しますと,家族信託とは,父親が息子に自宅や貸アパートの管理,運用及び処分を任せて(委託し),そこから生じる収益は父親が受け取る,ということを,信託契約という形式にすることです。

 

具体例

貸アパートを信託財産とする場合,まずは父親と息子で信託契約を締結します(信託契約書を作成します)。

 

その信託契約を根拠に,父親の貸アパートの名義が息子に変わります。

ただし,名義は変わりますが実質的所有者は父親のままです。

貸アパートの管理,運用及び処分の権限だけ息子に移行します。

形式的な所有者は息子となりますが,実質的な所有者は父親のままなので,それが第三者にわかるように登記簿謄本に記載されます。

 

信託契約締結後の家賃は受託者である息子が受け取ります。

このとき,自分の預金と混同しないように信託専用の口座を設けて分別管理をします。

貸アパートに関する必要な支払いはその信託専用口座から行います。

貸アパートの実質的所有者は父親のままですから,受け取った家賃は父親のものです。

よって,家賃収入に関する所得税の確定申告も父親の名によって行います。

 

息子に手数料を支払いたければ信託契約で定めることができますし,信託契約の終了をいつにするかも自由に定めることができます。

 

受託者である息子は,管理,運用及び処分する権限を与えられているので,貸アパートを建て直したり,信託契約の内容によっては貸アパートを取壊して土地を譲渡したりすることもできます。

この状態で,仮に父親の判断能力が低下し認知症と診断された場合であっても,その後の貸アパートの管理,運用及び処分は息子が行うことができます。

 

 

 

このように,家族信託であれば,本人が認知症と診断された場合であっても,その後の財産管理を予め自分が指定した人に委ねることができるので,相続対策を行うことも可能です。

また,家族信託は色々と応用することが可能で,例えば,遺言書では自分の遺産分割しか指定できないところ家族信託であればその次の代以降まで指定できるとか,工夫次第で様々な財産管理や遺産の分配が行えます。

 

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マンション管理組合の課税関係

2019-06-20(木) 19:54:37

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マンションの管理組合は区分所有法第3条の規定により設立される組織です。

登記して法人とすることもできますが,一般的には登記せずに,いわゆる「権利能力なき社団」として活動します。

この権利能力なき社団は法人税法では「人格のない社団等」に該当し,法人とみなされて法人税の納税義務を有します。

ただし,株式会社等の普通法人とは区別し,課税されるのは収益事業を行う場合のみです。

よって,マンション管理組合は収益事業を行った場合には法人税の納税義務を有することになります。

 

マンション管理組合が行う収益事業の代表格は駐車場の貸付けですが,その貸付け形態により次のように取扱われます。

 

①区分所有者である入居者のみに賃貸するケース

マンション管理組合が区分所有者というその構成員に対してのみ駐車場を賃貸する場合,それはその構成員を対象とする共済的な事業であり,その駐車場使用料は管理費等の割増金と考えられます。

一般的にはその駐車場使用料は区分所有者に分配されることはなく,組合運営費又は修繕積立金の一部に充当されますから,このような駐車場使用料はその全額が収益事業には該当しません。

これは,マンション内の会議室やゲストルーム等の利用料についても同様です。

 

②第三者へ賃貸するケース(区分所有者と同条件)

第三者へ賃貸するにあたり,駐車場使用料や賃貸期間等の賃貸条件について第三者と区分所有者とで特に区別せず,第三者へ賃貸した後に区分所有者から利用希望があった場合であっても,第三者に対して早期退去を求めないという場合には,駐車場使用料の全額が収益事業に該当します。

 

③第三者へ賃貸するケース(区分所有者優先条件有り)

第三者への賃貸は区分所有者の利用希望がない場合のみで,第三者へ賃貸した後に区分所有者から利用希望があった場合には,一定の期間内に明け渡さなければならないという区分所有者優先条件が付してある場合には,駐車場使用料のうち第三者から収受した部分だけが収益事業に該当します。

 

④短期間限定で第三者へ賃貸するケース

第三者への賃貸は予定していなかったが,近隣で道路工事を行っている土木業者から申出があり,工事期間中(約2週間)に限り賃貸することとしたケース等の短期間限定の一時的賃貸の場合には,その一時的賃貸は管理業務の一環であると考えられるため,区分所有者から収受した駐車場使用料も当該一時的使用料もその全額が収益事業に該当しません。

 

駐車場貸付業以外にもマンション管理組合が行う事業はいくつか考えられますが,マンション屋上に広告看板を設置したことによる広告主からの看板設置料は,不動産貸付業に該当し,収益事業に該当します。

また,最近多いのはマンション管理組合が移動体通信業者との間で携帯電話基地局の設置を目的として建物賃貸借契約を締結し,当該契約に基づいてマンション屋上の一部を移動体通信業者に使用させ,その設置料収入を得るケースですが,これは上記の看板設置料と同様に不動産貸付業に該当し,収益事業に該当します。

 

マンション管理組合が収益事業につき法人税等の申告をする場合には,その収益事業に係る収入から経費を控除して計算するわけですが,この場合,直接的な経費は当然として,間接的な経費すなわち非収益事業との共通経費についても,合理的に按分することで収益事業に係る経費として控除することができます。

これは減価償却費についても同様であり,駐車場そのものの減価償却費だけでなく,例えば建物躯体の共用部分についても合理的に按分することで収益事業に係る経費として控除することができます。

 

(参考)月刊税理2019年5月号

 

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不動産の売買契約中に相続が発生した場合の相続税の取扱いについて

2019-05-23(木) 19:34:05

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不動産の売買契約を締結した後,まだ引渡しを受ける前に相続が発生してしまった場合の相続税の取扱いは以下の通りです。

 

<売主の場合その1>

売買契約を締結し手付金を受け取った後,まだ残金を受け取る前に売主が亡くなってしまったケース

→ 土地所有権は売主に残っているものの,もはやその実質は残金(売買残代金債権)を確保するための機能を有するに過ぎず,土地所有権そのものが独立して課税財産を構成しているわけではないと考え,課税財産となるのは土地ではなく売買残代金債権となります(最高裁昭和62年12月5日第二小法廷判決)。

よって,相続税の課税対象となるのは不動産ではなく売買残代金債権ですので,路線価等を用いて評価することはできません。不動産ではありませんので小規模宅地等の特例の適用もありません。この場合,一般的には不動産としての評価額よりも債権としての評価額の方が高くなります。

また,売主が負担することになっていた仲介手数料その他の費用で相続開始時において未払いのものについては,相続税の債務控除の対象となります。

 

 

<売主の場合その2>

売買契約を締結し手付金を受け取った後,まだ残金を受け取る前に売主が亡くなってしまい,その後相続人が当該契約を解除したケース

→ 相続税の納税義務は相続開始の時に成立するものと解され,たとえ相続開始後に相続人が売買契約を解除した場合であっても,それは被相続人から契約上の地位を承継した相続人の意思によるものであって,相続開始時において売買残代金債権が確定的に被相続人に帰属していることに変わりはありません。

よって,上記その1と同様に,相続人が契約解除をした場合であっても売買残代金債権という相続財産が相続税の課税対象となります。

不動産の売買契約を売主が解除する場合,一般的には既に受領した手付金の2倍を返金しますが,手付金を2倍返金した上に売買残代金債権という相続財産に相続税が課税されることになりますので,経済的な負担は大きくなります。

 

 

<買主の場合>

・原則的取扱い

売買契約を締結し手付金を支払った後,まだ残金を支払う前に買主が亡くなってしまったケース

→ 契約に基づく代金決済が未了の場合,買主は相続開始時点では所有権を有しておらず,相続税の課税財産に含まれるものは,土地の所有権移転請求権等の債権的権利です(前出最高裁判決)。また,被相続人から承継した債務は,相続開始時における残代金支払債務となります。

よって,相続税の課税対象となるのは所有権移転請求権(一般的には当該売買契約における購入金額)となります。また,残代金支払債務(一般的には手付金以外のこれから支払う残代金)は債務控除することができます。結果として,純額である手付金が相続税の課税対象になることと金額的には同じになります。

 

・例外的取扱い

不動産の売買契約を締結した日から相続開始の日までの期間が通常よりも長期間である等,購入金額が相続開始時点における所有権移転請求権の価額として適当でない場合には,別途個別に評価した金額が所有権移転請求権の価額となります。

また,原則的取扱いにかかわらず,その売買契約により購入する不動産を相続財産とする相続税の申告をすることも認められます。この場合の不動産の評価額は,路線価等を基に財産評価基本通達により評価した金額となります。

 

 

(参考)月刊税理2018年11月号

 

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