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解雇した従業員に対する紛争解決金の課税関係

2025-08-27(水) 17:02:13

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「解雇」とは,使用者(会社)による労働契約の解約を意味し,期間の定めのない労働契約に関して使用者が労働者(従業員)を解雇する場合には,原則として,少なくとも30日前にその予告(解雇予告)をしなければなりません。

30日前に予告をしない場合には,30日分以上の平均賃金を支払わなくてはならず,これを解雇予告手当といいます。

 

ところで,所得税法における退職手当等とは,「本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので,退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与」をいうのですが,解雇予告手当は,解雇すなわち退職を原因として一時に支払われるものですので,給与所得ではなく退職所得に該当します。

 

また,使用者の解雇という処置に対し,労働者はしばしば解雇無効を主張して,従業員としての地位の確認や未払給与及び慰謝料などの支払いを求めて訴訟を提起しますが,その解決手段として支払われる紛争解決金の課税関係については,和解調書等の具体的な内容により判断されます。

 

すなわち,和解等により支払われる金員のうち,「退職に伴って支給する」旨の記載があるものについては「退職所得」と判断されますし,「和解時点まで従業員としての地位を有し,会社は給与等を支払い,労働者は和解時点で退職する」旨の記載があれば,未払給与に該当する部分は「給与所得」と判断されます。

 

あるいは,各種ハラスメント等により,「心身に加えられた損害に起因して支払われる慰謝料その他損害賠償金」や「相当の見舞金」に該当するものは,非課税となります。

ただし,見舞金のうち「相当の見舞金」を超える部分の金額は,一時的に受けるものについては「一時所得」に該当し,経常的に受けるものについては「雑所得」に該当します。

 

この場合において,いずれの所得に該当するかは,和解調書等の記載内容の文言のみならず,そこに至る過程である訴状,答弁書,準備書面といった裁判資料の内容を基に,紛争解決金が確定するまでの全ての諸事実を総合勘案した上で,実態に沿った判断がなされることに留意する必要があります。

 

次に,使用者側の源泉徴収義務についてですが,給与所得又は退職所得に該当する紛争解決金については,通常のこれらの所得と同様に,所得税等を源泉徴収する必要があります。

 

退職所得の場合には,退職者から「退職所得の受給に関する申告書 兼 退職所得申告書」(以下,単に「退職所得の受給に関する申告書)の提出を受けている場合と受けていない場合とで取扱いが異なります。

 

「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合には,原則として,退職手当等から退職者の勤続年数に応じた退職所得控除額を控除し,その残額に1/2を乗じて課税退職所得金額を算出し,その課税退職所得金額に応じた所得税を源泉徴収することになります。
この場合,退職者本人の退職金に関する課税関係は源泉徴収だけで終了し,確定申告する必要はありません。

 

一方,「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合には,退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じた所得税(復興特別所得税を含む)を源泉徴収します。

この場合,退職者は高い税率で所得税を源泉徴収されているので,その者の他の所得の状況にもよりますが,一般的には確定申告をすることにより所得税の還付を受けることができます。

 

住民税についても特別徴収(住民税の場合は源泉徴収ではなく特別徴収といいます)が必要ですが,その方法は,原則として,上記所得税の場合における「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合と同様です。

税率は市民税6%,県民税4%です。

 

ただし,住民税の場合には,「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合であっても,当該申告書の提出を受けている場合と同様の計算方法となります。

 

特別徴収した住民税の納付先は,退職金の支払われる日(通常は退職年月日)が属する年の1月1日において退職者が居住していた市区町村です。

 

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