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令和2年度税制改正大綱

2020-01-19(日) 15:27:35

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【令和2年度税制改正大綱】

12月20日に政府税制調査会から令和2年度税制改正大綱が発表されました。

その中から,いつかは封じ込められると言われ続けてきた節税策のうち,今回の税制改正でついに規制されることになったものをご紹介します。

 

<海外不動産から生じた赤字の損益通算規制>

これまで,多額の給与所得がある個人が,海外不動産を購入してこれを賃貸し,作為的に赤字の不動産所得を生じさせて給与所得と相殺(損益通算)することで所得税及び住民税の軽減を図る節税策が横行していましたが,この方法が規制されることになりました。

 

新築信奉者が多い日本とは異なり,米国では築50年の中古住宅でも新築と遜色なく取引が行われ,賃貸需要もあります。

そこで,これを1億円で購入し,毎年の減価償却費を2,500万円として4年間賃貸しますと不動産所得としては当然赤字となり,この赤字と給与所得を相殺することで所得税及び住民税を軽減することが可能でした。

4年経過後に1億円で譲渡することで資金を回収すれば,譲渡所得に20%の分離課税がされたとしても,何もしないままの給与所得に対する総合課税よりは節税になったわけです。

これが規制されることになりました。

 

◇具体的な改正内容は次のとおりです。

「個人が,令和3年以後の各年において,国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合において,その年分の不動産所得の金額の計算上,国外不動産所得の損失の金額があるときは,その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は(略)生じなかったものとみなす。」

 

この場合における「国外中古建物」とは,個人が取得した国外にある建物で,不動産所得の金額の計算上その建物の減価償却費を計算する際の耐用年数をいわゆる「簡便法」により算定しているものをいいます。

よって,簡便法ではなく法定耐用年数で減価償却費を計算している場合には規制の対象外です。

また,規制対象は個人所有の場合だけで,法人所有については言及されていません。

令和2年以前に取得した海外不動産であっても,令和3年以後の所得税及び住民税の計算においては改正内容が適用されるようです。

 

<居住用賃貸建物の取得等に係る消費税の仕入税額控除制度等の適正化>

居住用の家賃収入は消費税非課税ですが,居住用建物を購入する場合は消費税課税です(土地は非課税)。

やり方を工夫すれば建物購入時に支払った消費税の還付を受けることも可能でしたが,これが規制されることになりました。

 

これまで,賃貸不動産を購入する場合において,その目的が資産形成であっても相続税対策であっても,賃貸不動産の購入時における消費税還付というのは一つのテーマであり,古くは自動販売機方式が流行り,最近では金地金方式が主流になっていましたが,いつの時代も課税当局と納税者のイタチごっこが繰り返されてきました。今回の改正では仕入税額控除そのものが認められないこととなり,根本的に規制されることになりました。

 

◇具体的な改正内容は次のとおりです。

「住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外の建物であって高額特定資産に該当するもの(以下「居住用賃貸建物」という。)の課税仕入れについては,仕入税額控除制度の適用を認めないこととする。ただし, 居住用賃貸建物のうち,住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな部分については,引き続き仕入税額控除制度の対象とする。」

 

上記の改正は令和2年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合について適用されます。

ただし,同年3月31日までに締結した契約に基づき同年10月1日以後に居住用賃貸建物の仕入れを行った場合には適用されません。

 

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未払決算賞与の損金算入時期

2019-12-05(木) 16:49:52

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事業年度終盤になると1年間の業績もおおよそ予測がつきますので,業績の良い法人では決算対策の一環として使用人に決算賞与を支給することがあります。

決算対策ですので,当然,当該事業年度の賞与として費用に計上したいところですが,そのためにはいくつか条件があります。

 

まず,法人税法上の使用人賞与の損金算入時期は,次に掲げる区分に応じ,次に掲げる事業年度です。

 

(1) 労働協約又は就業規則により定められる支給予定日が到来している賞与(使用人にその支給額が通知されているもので,かつ,その支給予定日又はその通知をした日の属する事業年度においてその支給額につき損金経理したものに限る)→ その支給予定日又はその通知をした日のいずれか遅い日の属する事業年度

 

(2) 次に掲げる要件の全てを満たす賞与 → 使用人にその支給額の通知をした日の属する事業年度

イ その支給額を,各人別に,かつ,同時期に支給を受ける全ての使用人に対して通知をしていること

ロ イの通知をした金額を通知した全ての使用人に対しその通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払っていること。

ハ その支給額につきイの通知をした日の属する事業年度において損金経理をしていること。

 

(3) (1)及び(2)以外の賞与 → その支払をした日の属する事業年度

 

(1)は予め支給日が決まっている通常の使用人賞与のことですので課税上余り問題になることはなく,実務上,しばしば課税当局から課税上の問題を指摘されるのは専ら(2)についてです。

 

具体的には次のような場合で,今期の業績が好調だった法人が社員の頑張りに報いると同時に利益圧縮を図るため期末間近になって決算賞与の支給を決定することはよくあることですが,実際の支給が翌事業年度になった賞与まで無条件に損金算入を認めてしまうと,事業年度終了後に未払賞与を計上することで課税所得をいくらでも減らすことが可能となってしまい,課税上問題であると言わざるを得ません。

 

そもそも法人税法では,債務が確定した費用のみ損金に算入することができ,まだ債務が確定しているとは言えない見積計上や引当金は,法令に別段の定めがあるものを除き,損金算入は認められません。

 

しかしながら,債務の確定が確証できる未払賞与についてまで損金算入を認めないというのも,それはそれで他の債務が確定した未払費用の損金算入が認められることと整合性が取れませんので,上記(2)のような条件を満たした未払賞与については,その損金算入が認められることになっています。

 

すなわち,未払賞与を損金算入するためには,①事業年度が終了する日までに各人に支給額を通知し,②事業年度終了後1か月以内に通知した者全員に通知した金額を支給し,③その事業年度で未払計上することが条件となっています。

 

これらの条件のうち,実務上,特に厄介なのが「通知をしていること」という条件です。

法令上は文書での通知が必要とは規定されていませんが,後日,税務調査があった場合には「通知をしていること」を立証する必要がありますので,口頭ではなく文書で通知することが必要となります。

 

更に,文書そのものは日付を遡って作成することが可能ですので,より念を入れて,事業年度終了の日までに通知したことを客観的に立証できるようにしておくことが必要です。

公証役場での確定日付までは必要ないと思いますが,社員一人ひとりから通知書の受領書を取得するという方法は広く用いられているようです。

 

また,法人によっては支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合がありますが,この場合のその支給額の通知は,ここでいう「通知」には該当しません。

よって,未払賞与を損金算入するためには,支給日において既に退職している使用人がいたとしても通知額どおりに支給する必要があります。

 

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無理な消費税還付

2019-11-03(日) 16:09:14

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不動産賃貸業に携わっている人であれば「消費税還付」というキーワードを耳にしたことがあると思いますが,無理な消費税還付は否認されることもあるので注意が必要です。

 

消費税は,その事業年度における「売上げに係る消費税」から「仕入れに係る消費税」を控除し,その残額がプラスなら納税し,マイナスなら還付を受ける仕組みになっています。ただし,控除することができる「仕入れに係る消費税」には様々な制限があります。

 

不動産を購入する場合,土地は消費税非課税ですが建物は消費税課税なので,居住用賃貸不動産を購入しますと建物に係る多額の消費税を支払うことになります。

 

一方で,その事業年度に収受する家賃は建物対価よりも一般的には少額ですので,売上げに係る消費税から仕入れに係る消費税を単純に控除すると必ずマイナスになります。ただし,居住用賃貸不動産の場合,収受する家賃そのものが消費税非課税ですので,支払った仕入れに係る消費税を直接控除することはできず,仕入れに係る消費税に課税売上割合を乗ずることで,控除する消費税を制限しています。

式で表すと次のようになります。

A 売上げに係る消費税

B 仕入れに係る消費税×課税売上割合

A-Bがプラスなら納税,マイナスなら還付

 

課税売上割合とは,その事業年度における総売上に占める課税売上の割合のことですが,居住用賃貸不動産から収受する家賃は非課税売上ですので,その家賃だけしか収入が無い場合,課税売上割合は0となります。つまり,控除することができる消費税は0となり,消費税の還付を受けることはできません。

 

そこで,消費税還付を受けるべく様々なスキームがこれまで考案されてきて,その多くが税制改正で封じ込められてしまったものの,未だ活用されている方法が金地金スキームです。

 

金地金スキームは,金地金の売買を繰り返し,課税売上を作為的に作り上げることによって課税売上割合を大きくし,控除することができる仕入れに係る消費税を多くする方法です。

実際に実行する場合にはこれをベースに様々な調整が必要になりますが,やり過ぎて否認されるケースもあるので注意が必要です。

 

最近公表された否認事例の概要は以下の通りです。(平成31年(行コ)第90号,平成31年(行コ)第96号)

Aは居住用賃貸不動産の購入に係る売買契約を締結した課税期間(引渡しはまだ受けていない)に建物に係る消費税を計上し,同課税期間に金地金の売買を行って作為的に課税売上割合を100%にして消費税の還付申告を行いました。税務署は建物に係る消費税を計上できるのは実際に引渡しを受けた翌課税期間であるとし,Aの申告を否認しました。Aが自己の申告の正当性を主張して国を訴えたものの,東京地裁及び東京高裁ともにAの訴えを退けました。

 

Aが正当性を主張した根拠は次の通達です。

消費税基本通達9-1-13「固定資産の譲渡の時期は,別に定めるものを除き,その引渡しがあった日とする。ただし,その固定資産が土地,建物その他これらに類する資産である場合において,事業者が当該固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは,これを認める。」

 

この文章だけを読むとAは間違っていないとも思われますが,この通達には,不動産については一般的にその引渡しの事実関係が外形上明らかでないことが多いので契約基準も認めることにしているという前提があります。決して自己の都合の良いように選択性を認めているわけではなく,原則は引渡基準であることに変わりはありません。常識で考えればわかることですし,奇をてらい過ぎるとこのように否認されるので注意が必要です。

 

参考:税務通信No.3575

 

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非居住者への不動産譲渡は要源泉徴収

2019-10-01(火) 10:38:22

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所得税は,自らがその年の所得金額とこれに対する税額を計算し自主的に申告・納税する「申告納税制度」が建前です。

これと併せて特定の所得については,その所得の支払者がその支払の際に所得税を源泉徴収して納付する「源泉徴収制度」が採用されています。

 

この源泉徴収制度で最も一般的なのは会社が支給する給与等です。

給与等の支払者はその支払の際に,所得税を源泉徴収して国に納付しなければなりません。

これを源泉徴収義務といいます。

 

この源泉徴収義務は「義務」ですので,源泉徴収を怠ると罰則があります。

正当な理由なく納期限までに完納されなかった場合には納付すべき金額の10%に相当する不納付加算税が課されます。

 

さて,この源泉徴収制度ですが,会社が支給する給与や報酬及び配当等については比較的周知されていますので所得税を源泉徴収することを失念することは余りないのですが,不動産取引においても源泉徴収義務を有する場合があるので注意が必要です。

 

不動産取引において源泉徴収義務を有する場合とは,非居住者又は外国法人から一定の不動産を購入する場合です。

すなわち,非居住者又は外国法人から国内にある不動産を購入する場合には,その対価の支払をする者はその譲渡対価に対して10.21%の所得税及び復興特別所得税を源泉徴収し,国に納付しなければなりません。

ただし,購入する者が個人であって,自己の居住用に取得する場合で,かつ,対価の額が1億円以下である場合には源泉徴収の必要はありません。

 

ところで,所得税法における居住者と非居住者の区分ですが,居住者とは「国内に住所を有し,又は現在まで引き続き1年以上居所を有する個人」をいい,非居住者とは,「居住者以外の個人」をいいます。

また,住所は,個人の生活の本拠をいい,生活の本拠かどうかは客観的事実によって判定します。

したがって,居住者か非居住者であるかについて国籍は関係ありませんし,住所がどこであるかについて住民票の有無は関係ありません。

住民票が日本に無い外国人であっても,日本に1年以上居住していれば居住者に該当することはありますし,反対に,住民票が日本にある日本人であっても,客観的事実に基づく住所が外国にある場合には非居住者に該当することもあります。

 

一般的に不動産取引をする場合,仲介業者を介することが多く,プロでない限り売主と買主が直接やり取りすることはまれですが,仲介業者が必ずしも源泉徴収制度を承知しているとは限りません。

もし仮に,仲介業者が源泉徴収制度を知らず,売主が非居住者であるにもかかわらず売買代金の全額を売主に渡してしまったら,源泉徴収義務違反となり,譲渡対価の10.21%を買主が国に納税しなければなりません。

加えて,その源泉税の10%に相当する不納付加算税も課税されます。

結果として二重に支払ったこととなる源泉税については,当然,売主に返金請求することはできます。

できますが,相手が返金してくれるか否かはわかりません。

売った不動産が居住用であれば売主は引っ越しするでしょうし,それが外国であれば連絡を取ることも容易ではありません。

運良く連絡が取れたとしても,返金を拒否されたら,現実的には取立ては難しいです。

 

源泉徴収を失念した場合であっても,源泉税の本来の「負担者」である売主から国が直接徴収すれば良いという意見を耳にしますが,法律上の「納税義務者」はあくまでも買主ですので,国が売主に課税処分をすることはありません。

 

東京五輪以降,不動産価額が縮小すると予想する声も大きく,非居住者や外国法人が多くの不動産を売却するかも知れません。

そのタイミングで不動産を購入する場合には,くれぐれも源泉徴収義務にご注意下さい。

 

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遺留分制度の見直し

2019-09-17(火) 17:45:31

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遺留分制度とは,被相続人の有していた相続財産について,一定の相続人に一定の割合での承継を保障する制度です。

 

被相続人は,原則として,生前贈与や遺言により自己の財産を自由に処分することができますが,特定の相続人だけにすべての財産を相続させるという遺言を残していた場合,本来であれば自宅や預貯金を相続できたはずの他の相続人が何も相続できず,その後の生活に支障を来すということも考えられます。

 

そこで,被相続人が特定の相続人等に偏った遺言を残していた場合であっても,他の相続人が遺留分権利者である場合には,その遺留分権利者は遺留分の範囲内において相続財産を取得しうる権利(遺留分権)が与えられます。

 

この場合において,この遺留分権は行使される必要がありますので,遺留分が侵害された遺言が残されていた場合であっても,遺留分権利者が遺留分権を行使しなければ,その遺言の効力は有効となります。

 

遺留分権利者となる者は,配偶者,子,直系尊属です。兄弟姉妹は遺留分権利者とはなりません。

 

遺留分の割合は相続人が被相続人とどのような身分関係にあったかによって決まります。具体的には次のとおりです。

・相続人が直系尊属のみ・・・被相続人の財産の1/3

・上記以外・・・・・・・・・被相続人の財産の1/2

 

平成30年民法改正前は,遺留分権が行使されると,原則として遺留分の割合に応じて相続財産すべてが当然に共有(準共有)となっていました。

 

そのため,共有関係を解消するためには共有物の分割手続が必要となったり,相続財産が事業用財産であるのに事業に関与していない相続人にも事業用財産の共有持分が生じたりして,円滑な事業承継の妨げになるという問題が生じていました。

 

そこで遺留分制度の見直しが図られ,今後(令和元年7月1日施行)は,遺留分を侵害された者は,遺贈や贈与を受けた者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の請求(遺留分侵害額請求権)をすることができるようになりました。

 

この改正により,これまでは遺留分権の行使により当然に相続財産の共有関係が生じていましたが,これを回避することができるようになりました。

 

また,遺留分侵害額に相当する金銭の請求をされた場合に,請求された側に金融資産が無いことも予想されますので,裁判所の許可を得て,相当期間の支払猶予を認めることとなりました。

 

この遺留分侵害額請求権は,遺留分権利者が,相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき,相続開始の時から10年を経過したときは時効により消滅します。

 

上記のとおり,改正後は遺留分権の行使は遺留分侵害額請求権という金銭債権となったわけですが,請求された側に現金又は預貯金が無い場合,有価証券や不動産等の資産をその支払に充当することが考えられます。

この場合において,その支払に充当した資産は譲渡したものとして所得税及び住民税が課税されますので注意が必要です。

 

この点,民法改正前において遺留分権の行使により土地が共有となり,当該土地を共有持分に応じて分割する場合にはその分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱われるのと異なります。

 

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