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配偶者居住権について

2019-04-02(火) 16:21:32

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昨年7月に民法が改正され,相続発生後の配偶者の居住権を保護するための方策として「配偶者居住権」という新たな権利が創設されました(改正民法1028条・2020年4月1日施行)。

 

これまでは,例えば次のようなケースでは,相続発生後の配偶者の生活が不安定になり,残された配偶者の生活保障の安定性が求められていました。

被相続人:夫

相 続 人:妻と子

遺  産:自宅6,000万円,預貯金4,000万円

 

それぞれの法定相続分1/2で遺産分割しますと,配偶者は自宅の5/6しか相続できません。

仮に配偶者が自宅全部を相続した場合であっても,現金もいくらか相続できなければ相続後の生活に支障を来します。

そこで,配偶者居住権という権利を創設し,相続発生後の配偶者の居住権を保護することとしました。

 

配偶者居住権の具体的な内容は次のとおりです。

被相続人の配偶者は,被相続人が所有していた建物に相続開始の時に居住していた場合において,次のいずれかに該当するときは,その居住していた建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得する。

・遺産分割によって配偶者居住権を取得するものとされたとき。

・配偶者居住権を遺贈により取得したとき。

 

このように,配偶者居住権は遺産分割や遺贈の選択肢の一つとして新たに創設された権利です。

あくまでも遺産分割や遺贈を通じて取得する権利ですので,相続発生と同時に自動的に取得できる権利ではありません。

遺言が無く,他の相続人との遺産分割協議が整わない段階では権利を取得することはできません。

 

先の例で,仮に配偶者居住権の評価額が2,000万円であった場合には,次のように相続することで配偶者の相続後の生活を安定させることができます。

配偶者が相続する財産:配偶者居住権2,000万円

           預貯金   3,000万円

 

子が相続する財産:負担付所有権4,000万円

           預貯金   1,000万円

 

配偶者居住権の存続期間は配偶者の終身の間です。

ただし,遺産分割協議若しくは遺言に別段の定めがあるとき,又は家庭裁判所が遺産分割の審判において別段の定めをしたときは,その定めるところによります。

 

配偶者が配偶者居住権を取得する場合,その居住建物自体は別の人が相続等することが前提となりますが,その居住建物の所有者は,配偶者に対し,配偶者居住権の設定の登記を備えさせる義務を負います。

逆に言いますと,配偶者は配偶者居住権の登記を求める権利を有することになります。

また,配偶者居住権は譲渡することはできません。

 

配偶者居住権は新しく創設された権利であるため,税務上は様々な取扱いが現時点では不明確です。

例えば,配偶者が亡くなって配偶者居住権が消滅した場合,その居住建物の所有者に経済的利益が生じたとして所得税や相続税等の課税があるのかどうか,或いは,配偶者居住権が設定された居住建物を売却することとなった場合において,配偶者居住権は譲渡することはできないため,配偶者は売却と同時に配偶者居住権を放棄することになると思われますが,これにより居住建物の所有者や敷地所有者に対し,配偶者居住権及び敷地利用権相当額の経済的利益が供与されたとして贈与税等の課税があるのかどうか,といった問題があります。

今後,課税当局がこれらの問題に対してどのような見解を示すのか注目されます。

 

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必要経費と家事関連費

2019-03-09(土) 12:22:22

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事業活動を明確に区分できる法人と異なり,事業を営む個人は,商行為として行動する場合と,日常の家庭生活として行動する場合とがありますので,これら両方に関連する費用を支出した場合には,どこまでが必要経費として認められるのか,その判断が非常に難しい場合があります。

 

まずは原則論ですが,所得税法では,家事費及びこれに関連する経費(家事関連費)は必要経費に算入できないことになっています。しかし,例外的に下記については必要経費への参入を認めています。

  1. 家事関連費の主たる部分が事業所得等を生ずべき業務の遂行上必要であり,かつ,その必要である部分を明らかに区分することができる場合における当該部分に相当する経費
  2. (略)

 

このように家事関連費であっても事業に必要だと明確に区分できる部分は必要経費に算入することができるのですが,所得税法はその区分方法を規定していません。

 

よって,納税者一人ひとりが,自身が営む事業の内容や規模等を総合勘案して,主観的でない客観的な基準を用いて区分する必要があります。

 

支払家賃を例にとると,個人事業主の場合,店舗併用住宅のように住宅を兼ねた店舗や事務所で事業を営む人も多いですが,店舗部分と住宅部分とが階や部屋で明確に分かれている場合には比較的簡単に必要経費部分を算出できますが,そうでない場合は税務上のリスクがあると言わざるを得ません。

 

過去の裁判例(注1)においては,リビング及びダイニングキッチンの一部が業務専用スペースであるとした納税者の主張を,家族が普通に生活するスペースでもあり区分が明確でないとして退けた事例があります。

 

よって,税務上のリスクを回避するためには,少なくとも業務専用の部屋を設ける等の対応が望まれます。

 

水道光熱費や火災保険料,自己所有家屋の場合は固定資産税や減価償却費なども,業務専用の部屋を設けることで,支払家賃と同様に必要経費部分を合理的に算出することができ,一定の税務リスクを回避できそうです。

 

次に交際費ですが,所得税法には交際費の意義に関する規定がありません。

一方,法人税法にはその規定があるため本質的には同じ性質であると認識して差し支えないと思われますが,所得税法では「専ら業務の遂行上直接必要なものに限られる」という規定になっていますので,法人税法よりも交際費の範囲が限定的になっていることに注意が必要です。

 

過去の裁判例(注2)においては,医師が情報交換を目的として同業者と会食した際の飲食代や建築士との食事をしながらの打合せ費用を必要経費として計上したところ,業務上直接必要でないという理由で否認された事例があります。

 

いささか厳しい判断であるとは思いますが,税務リスクを回避するためには,これらの費用が業務上直接必要であることを説明できるように事前に準備しておくよりほか仕方ありません。

 

旅費交通費が必要経費に算入されるか否かはその目的地が業務とどのような関連性を有するかで判断しますので,通常は比較的容易に判断できると思われますが,宿泊を伴うような場合は金額も高額になりがちですので注意が必要です。

 

業務の前後に個人的所用をこなす場合には旅費を業務と非業務に按分する必要がありますし,家族同伴の場合には同伴者に係る部分は必要経費に算入できません。

 

家族旅行を兼ねた出張旅費の場合,きっかけは業務上の出張であっても,宿泊先や旅行経路,旅行期間等を総合勘案すると,もはや主目的が業務とはいえない場合も多く,このような費用の計上は税務リスクが高まりますので,合理的な基準での旅費の按分は必須となります。

 

(注1)東京地裁H25.10.17判決

(注2)H25.7.9裁決

 

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確定申告義務

2019-01-31(木) 09:38:54

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もうすぐ所得税の確定申告の時期となりますが,確定申告書を提出しなければならない人はおおむね次の通りです。

 

1.給与所得がある人

  1. 給与の年間収入金額が2,000万円を超える人
  2. 給与を1か所から受けていて,他の所得(給与所得,退職所得を除く)の合計額が20万円を超える人
  3. 給与を2か所以上から受けていて,メイン給与以外の給与の金額と,他の所得(給与所得,退職所得を除く)との合計額が20万円を超える人
  4. 同族会社の役員やその親族などで,その同族会社から給与のほかに,貸付金の利子や資産の賃貸料などを受け取っている人
  5. 災害減免法により所得税等の源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた人
  6. 在日の外国公館に勤務する人や家事使用人などで,給与の支払を受ける際に所得税等を源泉徴収されないこととなっている人

 

 

2.公的年金等に係る雑所得がある人

公的年金等に係る雑所得のみで,公的年金等に係る雑所得の金額から所得控除を差し引いて残額がある人。

ただし,公的年金等の収入金額が400万円以下で,かつ,他の所得が20万円以下である人は,確定申告は不要です(公的年金等が源泉徴収されている場合に限る)。

 

 

3.退職所得がある人

外国企業から受け取った退職金など源泉徴収されていない退職金がある人。

ただし,一般的には退職金の支払者に「退職所得の受給に関する申告書」を提出しますので,退職金に関する課税関係は源泉徴収で完結しており,その場合は退職所得の申告は不要です。

 

4.その他の人(自営業者・不動産オーナーなど)

各種の所得金額の合計額(譲渡所得や山林所得を含む)から,所得控除を差し引き,その金額(課税される所得金額)に所得税の税率を乗じて計算した税額から配当控除額を差し引いた結果,残額のある人。

 

5.特に気を付けたい事項

  1. 同族会社の役員がその法人から貸付金利子を受け取った場合には,給与以外の所得が20万円以下であっても確定申告不要とはなりません。
  2. 所得税の確定申告義務に該当しない場合であっても,所得税の還付を受けるためには確定申告が必要です。
  3. 医療費控除や住宅ローン控除の適用を受けるためには所得税の確定申告が必要です(住宅ローン控除は給与所得者は初回のみ確定申告が必要で,2回目以降は年末調整で適用します)。
  4. 日本国内に住所を有している人又は現在まで引き続いて1年以上居所を有している人(非永住者を除く)は,所得が生じた場所が国の内外を問わずどこであっても,その全ての所得を日本で確定申告する必要があります。ただし,同じ所得について外国でも所得税を課された場合には外国税額控除の適用があります。
  5. 高額の「ふるさと納税」をした人は返礼品について一時所得の申告が必要です。返礼品による経済的利益を一つひとつ算定するのは実務的には難しいですが,総務省が各地方公共団体に対して「返礼割合実質3割」と指導していることから,経済的利益は「ふるさと納税した金額の3割」としておけば,一時所得の申告漏れを指摘される可能性はかなり低いと思われます。

ちなみに,一時所得は50万円までは課税されませんので,「ふるさと納税した金額の3割=50万円」となる金額は166万6,666円です。

よって,166万円以上のふるさと納税をした人は一時所得の申告が必要となります。

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返還を要しない保証金等の収益計上時期

2018-12-21(金) 13:20:56

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賃貸借契約に基づき建物を賃貸する場合,一般的には保証金或いは敷金といった名目で一定の金額を預かりますが,これが単なる「預り金」であれば受け入れた時点で収益計上する必要はありません。

 

ところが,よく見受けられる事例として,契約締結当初から予め返還を要しない部分の金額が定められていたり,一定期間経過するごとに一定の金額が返還を要しないこととなる契約となっていたりしますが,これらについては返還を要しないのですから,その返還を要しないことが確定した時点で収益計上する必要があります。

 

具体的には次のようなケースが考えられます。

 

(1) 契約当初から返還不要額が確定している場合

保証金として100万円を受け取り,そのうち30%は償却金とし,残額は賃貸借契約終了後に返還するという場合

100万円×30%=30万円は契約締結時に返還を要しないことが確定しているため,契約締結時において収益計上します。

 

(2) 一定期間経過するごとに返還不要額が増加する場合

賃貸期間10年の賃貸借契約の保証金100万円について,3年以内に解約した場合は全額を返還し,5年以内に解約した場合は80%を返還し,以後解約した場合は60%を返還するという契約内容の場合

100万円×20%=20万円は3年経過した時点で返還を要しないことが確定するためこの時点で収益計上します。

次に,100万円×(40%-20%)=20万円は5年経過した時点で返還を要しないことが確定するためこの時点で収益計上します。

 

(3) 一定期間経過することに返還不要額が減少する場合

賃貸期間10年の賃貸借契約の保証金100万円について,3年以内に解約した場合は60%を返還し,5年以内に解約した場合は80%を返還し,以後解約した場合は全額を返還するという契約内容の場合

契約が終了しない間は収益計上する必要はありませんが,満了前に契約が終了した場合には,その時点で返還を要しない部分の金額を収益計上する必要があります。

3年以内に解約となった場合は100万円×40%=40万円を収益計上し,3年超5年以内に解約となった場合は100万円×20%=20万円を収益計上します。

 

また,賃貸借契約の中には,預かった保証金のうち「解約時月額賃料の2ヶ月分相当額を償却する」という内容も間々見受けられますが,この場合,「返還を要しないことが確定した時点において,その部分の金額を収益計上する」という原則によれば,解約するまで返還を要しない部分の金額が確定しないため,契約期間中は収益計上する必要は無いとも考えられますが,実務上は,契約締結時における月額賃料の2ヶ月分相当額を契約締結時において収益計上します。

これは,解約時賃料の2ヶ月分相当額が返還不要となることは契約締結時において明らかであるためであって,一旦は契約締結時における賃料の2ヶ月分相当額を収益計上し,その後,賃料の改定があるたびに差額について調整することになります。

 

ちなみに,借主側の会計処理ですが,保証金の償却部分は「建物を賃借するために支出する権利金等」として権利金や更新料とともに繰延資産に該当し,5年(契約による賃借期間が5年未満である場合において,契約の更新に際して再び権利金等の支払いを要することが明らかであるときは,その賃借期間)にわたって償却します。

(参考)法基通2-1-41,所基通36-7,ケーススタディ法人税実務の手引き(新日本法規)

 

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土地とともに取得した建物をすぐに取壊した場合の会計処理

2018-12-01(土) 13:23:20

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法人が,建物が建っている土地をその建物と一括して購入した場合において,当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的である場合には,その建物の取得価額と建物の取壊し費用は,土地の取得価額に含めることになっています。

 

法人税基本通達7-3-6

法人が建物等の存する土地(借地権を含む。)を建物等とともに取得した場合又は自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合において,その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手する等,当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは,当該建物等の取壊しの時における帳簿価額及び取壊費用の合計額(廃材等の処分によって得た金額がある場合は,当該金額を控除した金額)は,当該土地の取得価額に算入する。

 

このような取扱いをする理由は,もともと建物は利用する意思がなく,その土地上にビルを新築するということが明らかであれば,欲しいのはその土地ということになりますので,そのような場合には建物の取得価額とその取壊し費用は土地の取得価額に算入すべきであるという考え方に基づきます。

 

建物の取壊しが取得後「おおむね1年以内」という基準ですが,これは形式基準ですので,たとえ建物の取壊しが取得後1年経過後であっても,当初から土地だけを利用する目的であることが明らかな場合には,建物の取得価額とその取壊し費用は土地の取得価額に含める必要があります。

 

尚,その建物を取り壊すまでの間に,実際にその建物を事業の用に供している場合には,その事業の用に供した期間に対応する減価償却費の計上は認められます。

 

次に,上記とは反対に,当初は建物を利用するつもりで土地及びその上に存する建物を取得し,実際にその建物を利用していたものの,後発的な理由から取得後1年以内に建物を取り壊したような場合には,その建物の償却後取得価額及び取壊し費用は,土地の取得価額に含めず,費用計上して差し支えないと考えられます。

 

これは,上記通達の文言が,「当初からその建物等を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは」と条件を付していることから読み取れます。

 

例えば,当初は倉庫として利用する目的で土地及び建物を取得し,実際に倉庫として利用していたものの,その後の社内事情等で建物を取り壊して本社ビルを建築することとなった場合には,たとえその取壊しが取得後1年以内であっても,その倉庫の償却後取得価額及び取壊し費用は,その取壊しをした事業年度の費用になると考えられます。

 

但し,その後発的理由を立証するのは課税庁側ではなく納税者側であり,後日の税務調査においては必ず調査項目に上がると思いますので,後発的理由により取壊した経緯等を詳細に記録し,きちんと説明できるようにしておく必要があります。

 

ちなみに,法人税だけでなく所得税にも同様の趣旨の通達があります。

 

所得税基本通達38-1

自己の有する土地の上に存する借地人の建物等を取得した場合又は建物等の存する土地(借地権を含む。以下この項において同じ。)をその建物等と共に取得した場合において,その取得後おおむね1年以内に当該建物等の取壊しに着手するなど,その取得が当初からその建物等を取壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときは,当該建物等の取得に要した金額及び取壊しに要した費用の額の合計額(発生資材がある場合には,その発生資材の価額を控除した残額)は,当該土地の取得費に算入する。