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財産債務調書制度の見直し
財産債務調書制度とは,一定の要件に該当する者はその所有する財産と債務を一覧にして所得税の所轄税務署へ提出しなければならない制度です。
以前の財産債務明細書制度を拡充して平成27年の税制改正において創設された制度ですが,この財産債務調書制度が令和4年の税制改正において改正されました。
<提出義務者>
まず,提出義務者についてですが,改正前は,(イ)所得金額2,000万円超,かつ,(ロ)総資産3億円以上又は有価証券等1億円以上を有する者でしたが,これでは所得金額2,000万円以下の者は多額の資産を有していても財産債務調書を提出する義務が無く,資産の異動状況について十分把握できていないという問題点があったため,改正後においては,現行の提出義務者に加え,総資産10億円以上を有する者は所得金額が2,000万円以下であっても(0円でも),財産債務調書を提出する義務を有することになりました。
実務的には,毎年の確定申告作業の際に,所得金額2,000万円超の人には個別に財産債務調書制度をお知らせして財産及び債務の状況を把握し,財産債務調書の提出義務の有無を判断することが多いため,改正後においては,多額の財産を有するものの所得税の納税義務が無い人について,財産債務調書の提出漏れとなる可能性があるため留意する必要がありそうです。
<提出期限>
次に,提出期限ですが,改正前は所得税の確定申告書の提出期限である翌年3月15日でしたが,改正後の提出期限は翌年6月30日となりました。
これは,確定申告書の提出義務は無いが財産債務調書の提出義務はあるという人に対応する上でも,歓迎すべき改正内容です。
<記載事項>
また,提出義務者の事務負担を軽減するという観点から,少額財産に関する記載を簡略化できる範囲が拡充されました。
改正前は,事業用の未収入金や借入金等で年末残高が100万円未満のものについては,所在別に区別することなく,件数及び総額で記載することができるとされていましたが,この範囲が300万円未満に拡充されました。
家庭用動産について,改正前は取得価額が100万円未満のものについては記載を省略することができましたが,改正後は300万円未満のものは記載を省略することができるようになりました。
預貯金口座について,改正前は全ての預貯金口座を記載する必要がありましたが,改正後は預入高50万円未満の預貯金口座については,預入高の記載は省略することができるようになりました。
事業又は業務を営んでいる者で青色申告決算書又は収支内訳書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産については,資産ごとに区分してではなく,総額で記載することができるようになりました。
<宥恕規定>
提出期限後に財産債務調書が提出された場合であっても,更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは,提出期限内に提出されたものとみなすという宥恕規定がありますが,この適用についても改正され,改正後は厳しくなります。
財産債務調書制度では,適正に記載した財産等に関して所得税等の申告漏れが生じた場合には,その財産等に係る過少申告加算税等を5%軽減する一方で,記載が無い財産に関して申告漏れがあった場合には,逆に過少申告加算税等を5%加重するということになっているのですが,これまで,提出期限までに財産債務調書を提出していない者が,税務調査の調査通知があった後,実際の調査日までの間に慌てて提出することで,この加算税の加重措置を回避する事例が見受けられました。
改正後は,宥恕規定は適用されないこととされましたので,加重措置を回避することはできなくなります。
上記宥恕規定の改正は,令和6年1月1日以後に提出される場合について適用され,それ以外は令和5年分の財産債務調書から適用されます。
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改正された賃上げ促進税制について
創設10年になる賃上げ促進税制は大企業向けと中小企業向けがあり,ほぼ毎年改正が繰り返されてきました。
今年も改正され,改正前よりは適用しやすくなりましたので,以下,賃上げ促進税制のうち中小企業向けの制度の概要をお知らせ致します。
中小企業向け賃上げ促進税制は,中小企業者等が,前年度より給与等を増加させた場合に,その増加額の一部を法人税から税額控除できる制度です。
<中小企業者等>
中小企業者等とは概ね次の法人をいいます。
・資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
(ただし,発行済株式又は出資の1/2以上を一定の大規模法人に所有されている法人を除く)
・資本又は出資を有しない法人で従業員1,000人以下
・協同組合等
<適用要件と税額控除額>
・通常の場合
国内雇用者に対する給与等の支給額が前年度よりも1.5%以上増加した場合…増加額の15%を法人税額から控除できます。
・上乗せ要件(その1)
国内雇用者に対する給与等の支給額が前年度よりも2.5%以上増加した場合…通常15%+上乗せ15%=30%を法人税額から控除できます。
・上乗せ要件(その2)
教育訓練費(後述参照)の額が前年度よりも10%以上増加した場合…通常15%+上乗せ10%=25%を法人税額から控除できます。
※二つの上乗せ要件を満たすと最大控除率は15%+15%+10%=40%となります。
※改正前の経営力向上要件は廃止されました。
<主な用語の意義>
・国内雇用者…国内事業所の使用人でパート,アルバイト,日雇労働者を含みますが,役員及び役員の特殊関係者等は含みません。
・給与等…俸給,給料,賃金,歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与をいいます。退職金は含みません。
・雇用者給与等支給額…先述の「国内雇用者」に対する「給与等」のことです。前年度のものは「比較雇用者給与等支給額」といいます。
なお,増加率を算定する場合においては,給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額を控除することになっています。具体的には各種補助金や助成金,親会社からの出向負担金等です。
ただし,雇用調整助成金等の雇用安定助成金額は控除しなくて良いことになっています。
・教育訓練費…国内雇用者の職務に必要な技術又は知識を習得させ,又は向上させるために法人が支出する費用をいいます。具体的には,教育訓練を法人自ら行う場合の外部講師への謝金や外部施設使用料等,他者に教育訓練を委託する場合の研修委託費や外部研修参加費等。
<適用期間>
令和4年4月1日から令和6年3月31日までに期間内に開始する事業年度が対象です。
<実務的対応>
本制度を利用するためだけに月額賃金を増加させるのは,経営的にはいささかハードルが高いように思いますが,例えば,当年度給与等の支給額の増加率を事前に試算しておき,賞与だけを当初支給予定額よりもアップすることで本制度の適用を受けるというのは有り得るように思います。
また,通常の場合の15%税額控除の適用を受けられそうだと予め判明していれば,上乗せ要件(その2)である教育訓練費について追加で検討するということも有り得そうです。
いずれにしても事前に給与等の増加率をシミュレーションしておくと,余裕をもって対応できそうです。
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通常の贈与と教育資金の一括贈与
個人からの贈与により取得した財産は原則として贈与税の課税対象となりますが,扶養義務者相互間における生活費又は教育費に充てるためにした贈与で通常必要と認められるものについては,贈与税は課税されません(ちなみに法人からの贈与により取得した財産は贈与税の課税対象とはなりませんが,一時所得として所得税の課税対象となります)。
これは,日常生活に通常必要となる費用を扶養義務に基づいてした贈与についてまで課税するのは適当でないからです。
扶養義務者とは,次の者をいいます。
①配偶者
②直系血族及び兄弟姉妹
③家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった三親等内の親族
④三親等内の親族で生計を一にする者
なお,扶養義務者に該当するか否かは,贈与があった時の状況により判断します。
通常必要と認められるものとは,被扶養者の需要と扶養者の資力その他一切の事情を勘案し,社会通念上適当と認められる範囲の財産をいいます。
よって,一律に判断されるものではなく,人や時代により異なります。
贈与税が非課税となる生活費とは,その者の通常の日常生活を営むのに必要な費用(教育費を除く)をいい,治療費,養育費その他これらに準ずるものを含みます。
ただし,保険金や損害賠償金により補填される部分の金額を除きます。
なお,具体的にどの程度のものまで生活費として認められるかについては,一律に決めることは適当でないので,個々の事情に即して社会通念に従って判断すべきものとされています。
次に,贈与税が非課税となる教育費とは,被扶養者の教育上,通常必要と認められる学資,教育費,文具費等をいいます。
義務教育費に限りませんので,幼稚園,高校,大学,各種学校等の義務教育以外の教育に要する費用も広く含まれます。
贈与税が非課税となる生活費又は教育費は,それが必要となる都度,直接これらの用に充てられるためにされた贈与である必要があります。
生活費又は教育費の名義で取得した財産であっても,これを預貯金とした場合や株式の買入代金又は家屋の買入代金等に充当したような場合には,贈与税が非課税となる生活費又は教育費には該当しません。
なお,離婚又は認知があった場合において,その離婚又は認知に関して子の親権者又は監護者とならなかった父又は母から,生活費又は教育費に充てるためのものとして子が一括して取得した金銭等については,その額がその子の年齢その他一切の事情を考慮して相当と認められる場合に限り,通常必要と認められるものとして取り扱われます。
以上のとおり,父母や祖父母が子の生活費又は教育費をその必要となる都度負担してあげても(贈与しても),通常必要と認められる範囲内であれば贈与税が課税されることはないのですが,教育費については将来にわたり多額の資金が必要であり,一括贈与のニーズも非常に高いです。
そこで,高齢者が保有する資産を若い世代へ移転させることで,子供の教育資金の早期確保を進め,多様で層の厚い人材育成に資するとともに,教育費の確保に苦心する子育て世代を支援し,経済活性化に寄与することを期待するという趣旨で,平成25年に「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税」という制度が創設され,今に至っています。
制度の概要は次のとおりです。
・贈与者:直系尊属(祖父母等)
・受贈者:30歳未満の孫等(前年の合計所得金額1,000万円以下の者に限る)
・非課税額:孫等ごとに1,500万円(学校以外の者に支払われるものは500万円)
・贈与方法:教育資金管理契約に基づき銀行等へ預け入れる方法等
・管理方法:贈与者が受贈者の銀行口座等へ教育資金を預け入れる→受贈者は教育資金の領収書等を銀行へ提出する→銀行は受贈者へ教育資金を払い出す
受贈者が30歳(在学中の場合は最高40歳)に達する等一定の事由に該当した日に口座は終了し,その時点で残高があれば贈与税が課税されます。
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実質的支配者リスト制度
令和4年1月31日より,法務省の制度として「実質的支配者リスト制度」の運用が開始されました。
以下,この制度の概要をご紹介します。
近年,組織犯罪やテロ活動等の脅威が増す中,国際社会は協調して,それらの防止・撲滅に取り組む必要があることは異論のないところでありますが,その一環として,大手金融機関においては,マネーロンダリングやテロ資金供与を防止するための管理体制を強化するべく,融資先企業等に対し,当該金融機関との取引の目的や経済制裁対象国に関連する取引の有無,その企業の実質的支配者等を確認するようになっています。
この確認作業の多くは書面の提出又はWeb入力を融資先企業等に依頼するといった方法で行われておりますが,その確認事項の一つである企業の「実質的支配者」の部分について,確認作業に国として関与する必要性が増してきたため法務省が制度を用意しました。
それが「実質的支配者リスト制度」です。
これまで我が国には株式会社の実質的支配者に関する商業登記制度がなく,犯罪収益移転防止法における株式会社の実質的支配者の確認は各金融機関にゆだねられてきました。
しかし,こうした姿勢が,FATF(Financial Action Task Forces:金融活動作業部会)から厳しい評価を受けたことも背景にあります。
<本制度の概要>
本制度は,株式会社(特例有限会社を含む)からの申出により,商業登記所の登記官が,当該株式会社が作成した実質的支配者リストについて,所定の添付書面により内容を確認し,その保管及び登記官の認証文付きの写しの交付を行うものです。
具体的には次のような流れになります。
①株式会社の代表者又は代理人が,実質的支配者リストを作成する。
②上記リスト,申出書,添付書面(実質的支配者リストの内容を証する書面)を法務局に提出する。
③法務局の登記官が申出内容を確認し,問題が無ければ実質的支配者リストを保管し,認証文付きの実質的支配者リストの写しを交付する。
④交付を受けた実質的支配者リストを金融機関等へ提出する。
本制度の対象となる実質的支配者とは,犯収法施行規則第11条第2項第1号の自然人(同条第4項の規定により自然人とみなされるものを含む)に該当する者をいい,具体的には,次の①又は②のいずれかに該当する者です。
①会社の議決権の総数の50%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)
②上記①に該当する者がいない場合は,会社の議決権の総数の25%を超える議決権を直接又は間接に有する自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明らかな場合を除く。)
上記①及び②に該当する者がいない場合における実質的支配者は「出資,融資,取引その他の関係を通じて事業活動に支配的な影響を有する自然人」となりますが,この場合における実質的支配者は本制度の対象外です。
本制度の運用はまだ始まったばかりであり,制度の利用は任意でもあるため,現時点では広く認知されているとは言い難いですが,今後は新たな銀行口座開設の際や融資の際に,本制度による実質的支配者リストの写しの提出を求められていくものと思われます。
また,制度趣旨としてはあくまでもマネーロンダリングやテロ資金供与の防止にありますが,個人所得税や相続税の現場における名義預金や名義株の判定にも利用され得るため,法人のみならず個人の税務リスクも意識して本制度を利用する必要があると思われます。
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相続土地の登記義務化について
被相続人が所有していた土地を相続した場合,一般的には相当の期間内に相続登記がなされますが,相続登記の申請は義務ではなく申請しなくても不利益を被ることは少ないことや,人口減少・高齢化等により地方を中心に土地所有意識の希薄化及び土地を利用したいというニーズの低下等の理由から,相続登記がなされないまま放置されることがあります。
このような相続登記がなされないまま放置された土地で,不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地や,所有者が判明してもその所在が不明で連絡が付かない土地は「所有者不明土地」と定義されますが,遺産分割がされないまま相続が繰り返されますと,土地の共有者がねずみ算式に増加することとなり,土地所有者を特定することが更に難しくなっていきます。
この所有者不明土地が増加しますと,共有者が多数だったり一部が所在不明だったりということを原因として共有者間での合意形成が困難となり,公共事業や復旧復興事業が円滑に進まず,土地活用の弊害となります。
また,所有者不明土地は管理がなされず放置されることが多く,隣接する土地へも悪影響を及ぼします。
ちなみに,所有者不明土地問題研究会(一般財団法人国土計画協会)が2017年12月に発表した最終報告では,2016年時点における全国の所有者不明土地面積は約410万haで,九州本島の土地面積約367万haを超えているそうです。
この所有者不明土地問題は,高齢化の進展による死亡者数の増加等により,今後更に深刻化し,現在の所有者不明土地の探索が行われないとすると,2040年には北海道本島の土地面積に迫る水準である約720万haにまで増加すると同研究会は予測しています。
そこで,この所有者不明土地問題の解消に向けて法が整備され,
①相続登記義務化などを盛り込んだ民法・不動産登記法等の改正,
②相続などにより取得した土地を手放すための制度に関する法律「相続土地国庫帰属法」
が,2021年(令和3年)4月に成立しました。
<相続登記申請の義務化>
相続又は遺贈により不動産の所有権を取得した相続人は,自己のために相続開始があったことを知り,かつ,不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に,
①相続を原因とする所有権移転登記申請(遺言または遺産分割協議に基づく場合または法定相続分の割合による場合)
②遺贈を原因とする所有権移転登記申請
③相続人申告登記の申し出
のいずれかの相続登記の申請等をすることが義務付けられました。
2024年(令和6年)4月1日から施行開始です。
正当な理由無く上記申請義務に違反した場合は,10万円以下の過料が科されます。
上記③の「相続人申告登記」とは新たに制定された制度で,期日までに遺産分割協議が成立しないといった理由から相続登記ができない場合であっても,登記官に対し,自らが登記名義人の相続人である旨を申し出ることにより,相続を原因とする所有権移転登記の申請義務が履行されたものと見なされます。
また,所有権の登記名義人は,住所等の変更日から2年以内に当該変更登記を申請することも義務付けられました。
正当な理由無く申請義務を怠った場合は,5万円以下の過料が科されます。こちらの施行日はまだ決まっていません。
<相続土地国庫帰属制度>
相続又は遺贈(相続人に対する遺贈に限る)により取得した土地の所有権を手放して,国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました。
大まかな手続きの流れは,
①承認申請
②法務局による要件審査・承認
③申請者による負担金の納付
④国庫帰属
となります。
対象となる土地は相続又は遺贈により取得した土地に限られ,売買等で自ら購入した土地は対象外です。
申請できる土地には要件があり,土地上に建物が存したり,担保権が設定されていたり,境界が未確定である土地等は申請しても却下されます。
申請者は審査手数料と10年分の土地管理費相当額の負担金を納付する必要があります。
所有者不明土地を解消する目的とはいえ,それなりに厳格な要件を充足しなければならないため,本制度を利用して土地を手放すのは簡単ではなさそうです。
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