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財産債務調書制度の見直し

2022-08-19(金) 16:53:47

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財産債務調書制度とは,一定の要件に該当する者はその所有する財産と債務を一覧にして所得税の所轄税務署へ提出しなければならない制度です。

以前の財産債務明細書制度を拡充して平成27年の税制改正において創設された制度ですが,この財産債務調書制度が令和4年の税制改正において改正されました。

 

<提出義務者>

まず,提出義務者についてですが,改正前は,(イ)所得金額2,000万円超,かつ,(ロ)総資産3億円以上又は有価証券等1億円以上を有する者でしたが,これでは所得金額2,000万円以下の者は多額の資産を有していても財産債務調書を提出する義務が無く,資産の異動状況について十分把握できていないという問題点があったため,改正後においては,現行の提出義務者に加え,総資産10億円以上を有する者は所得金額が2,000万円以下であっても(0円でも),財産債務調書を提出する義務を有することになりました。

 

実務的には,毎年の確定申告作業の際に,所得金額2,000万円超の人には個別に財産債務調書制度をお知らせして財産及び債務の状況を把握し,財産債務調書の提出義務の有無を判断することが多いため,改正後においては,多額の財産を有するものの所得税の納税義務が無い人について,財産債務調書の提出漏れとなる可能性があるため留意する必要がありそうです。

 

<提出期限>

次に,提出期限ですが,改正前は所得税の確定申告書の提出期限である翌年3月15日でしたが,改正後の提出期限は翌年6月30日となりました。

これは,確定申告書の提出義務は無いが財産債務調書の提出義務はあるという人に対応する上でも,歓迎すべき改正内容です。

 

<記載事項>

また,提出義務者の事務負担を軽減するという観点から,少額財産に関する記載を簡略化できる範囲が拡充されました。

改正前は,事業用の未収入金や借入金等で年末残高が100万円未満のものについては,所在別に区別することなく,件数及び総額で記載することができるとされていましたが,この範囲が300万円未満に拡充されました。

家庭用動産について,改正前は取得価額が100万円未満のものについては記載を省略することができましたが,改正後は300万円未満のものは記載を省略することができるようになりました。

預貯金口座について,改正前は全ての預貯金口座を記載する必要がありましたが,改正後は預入高50万円未満の預貯金口座については,預入高の記載は省略することができるようになりました。

事業又は業務を営んでいる者で青色申告決算書又は収支内訳書の「減価償却費の計算」欄に記載された減価償却資産については,資産ごとに区分してではなく,総額で記載することができるようになりました。

 

<宥恕規定>

提出期限後に財産債務調書が提出された場合であっても,更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないときは,提出期限内に提出されたものとみなすという宥恕規定がありますが,この適用についても改正され,改正後は厳しくなります。

財産債務調書制度では,適正に記載した財産等に関して所得税等の申告漏れが生じた場合には,その財産等に係る過少申告加算税等を5%軽減する一方で,記載が無い財産に関して申告漏れがあった場合には,逆に過少申告加算税等を5%加重するということになっているのですが,これまで,提出期限までに財産債務調書を提出していない者が,税務調査の調査通知があった後,実際の調査日までの間に慌てて提出することで,この加算税の加重措置を回避する事例が見受けられました。

改正後は,宥恕規定は適用されないこととされましたので,加重措置を回避することはできなくなります。

 

上記宥恕規定の改正は,令和6年1月1日以後に提出される場合について適用され,それ以外は令和5年分の財産債務調書から適用されます。

 

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