HOME >BLOG
税法における事業と業務の違い
「〇〇を事業として行っている」と「〇〇を業務として行っている」は,日本語としては両者にそれほど大きな差は無いように感じますが,所得税法においては事業から生ずる所得は事業所得,業務から生ずる所得は雑所得というように明確に区分しており,その取扱いにおいて天と地ほどの差があります。
ところが所得税法においては事業とは何かの明確な定義規定が無く,政令(所令63)において「対価を得て継続的に行う事業」が事業所得に該当すると定めているに過ぎません。
この点につき最高裁(注1)は,「『対価を得て継続的に行う事業』に該当するか否かは,結局,一般社会通念に照らして決めるほかないと思われるが,その判断に際しては,営利性・有償性の有無,継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず,この観点からは,当然にその取引の種類,取引における自己の役割,取引のための人的・物的設備の有無,資金の調達方法,取引に費やした精神的,肉体的労力の程度,その者の職業・社会的地位などの諸点が,検討されなければならない」としています。
さて,所得税法における事業と業務の取扱いの違いの筆頭に挙げられるのは,損失が生じた場合です。
事業所得の計算上生じた損失は,一定の順序によりまずは他の所得から控除します。いわゆる損益通算です。そして,この損益通算をしてもなお控除することができない金額は,翌年以後3年間繰越すことができます。
一方,雑所得の計算上生じた損失は,無かったものとされ損益通算さえ適用されません。
また事業専従者に対する人件費は,事業所得においては青色事業専従者給与(青色申告の場合)又は事業専従者控除(白色申告の場合)として必要経費に算入することが認められますが,雑所得の場合は一切認められません。
債権の貸倒損失については,事業の場合にはその損失が生じた年分の必要経費に算入されますが,業務の場合には収入金額に計上されていた年分に遡って収入金額から減額されます。
貸倒引当金は,事業の場合には一定の方法により計算した繰入限度額までの計上が認められますが,業務の場合には認められません。
次に,建物の貸付けによる所得は規模の大小に関わらず不動産所得に該当しますが,不動産所得の場合にも,それが事業的規模で行われている場合とそうでない場合とで取扱いの違いがあります。
不動産所得の場合には,事業的規模で行われているか否かの目安として,いわゆる5棟10室基準というものがあり,貸与する集合住宅がおおむね10室以上か,貸与する独立家屋が5棟以上の場合には事業的規模で行われているものと判断されます(所基通26-9)。
不動産所得における事業と業務の取扱いの違いの筆頭に挙げられるのは,資産損失の取扱いです。
事業の用に供される固定資産について,取壊し,除却,滅失等により生じた損失の金額は,その損失が生じた年分の必要経費に算入されますが,業務の用に供される資産の損失の金額は,その損失が生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入されます。
例えば,事業的規模でないアパートを取壊した場合には,その取壊しによる損失の計上により不動産所得が実態としてマイナスになることが予想されますが,所得金額の計算上はマイナスにはならず,切り捨てられることになります。その結果,損益通算や翌年以降への繰越しも当然できません。
このように,所得税法では事業か業務かでその取扱いを異にし,最終的には税額にも影響しますが,一方,消費税法では「国内において事業者が行った資産の譲渡等及び特定仕入れ」を課税対象としており,その規模は問わないこととしているので,事業者が行う資産の譲渡等が所得税法における業務に該当する場合であっても,消費税の納税義務が生じることは当然あり得るので注意が必要です。
(注1)最高裁昭和53年10月31日判決・訟月25巻3号889頁
外国人労働者の国外に居住する扶養親族について
コンビニエンスストアや飲食店などで外国人労働者を頻繁に見かけるようになって久しいですが,外国人労働者に対する源泉徴収事務,とりわけ年末調整時の配偶者控除や扶養控除の取扱いは,特別に注意を要する必要があります。
まず大原則として,社員やアルバイトなどの労働者が日本人であっても外国人であっても,配偶者控除や扶養控除の定義は同じです。
すなわち配偶者控除とは,納税者に所得税法上の「控除対象配偶者」がいる場合に適用を受けられる所得控除ですが,この控除対象配偶者とは,次の全ての要件に該当する人です。
①民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は該当しません。)
②納税者と生計を一にしていること
③年間の合計所得金額が38万円以下であること
④青白問わず事業専従者でないこと
また,扶養控除とは,納税者に所得税法上の「控除対象扶養親族」がいる場合に受けられる所得控除で,この「控除対象扶養親族」とは,原則としてその年の12月31日において次の全ての要件に該当する人です。
①配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族をいいます)※16歳以上に限る
②納税者と生計を一にしていること
③年間の合計所得金額が38万円以下であること
④青白問わず事業専従者でないこと
これらの場合における「生計を一にしていること」とは,必ずしも同居を要件とするものではありません。
例えば,勤務,修学,療養費等の都合上別居している場合であっても,余暇には起居を共にすることを常例としている場合や,常に生活費,学資金,療養費等の送金が行われている場合には,「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
単身赴任で夫と他の家族が別居している場合などが典型例ですが,これは外国人労働者であっても同様です。
但し,外国人労働者の場合には,配偶者や親族を扶養していることを証明するために,「親族関係書類」と「送金関係書類」を給与等支払者に提出又は提示しなければならないことになっています。
「親族関係書類」とは,次の①又は②のいずれかの書類(外国語で作成されている場合にはその翻訳文も必要)で,その国外居住親族がその納税者の親族であることを証するものをいいます。
①戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及びその国外居住親族の旅券の写し
②外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(その国外居住親族の氏名,生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限る)
また,「送金関係書類」とは,その年における次の①又は②の書類(外国語で作成されている場合にはその翻訳文も必要)で,その国外居住親族の生活費又は教育費に充てるための支払いを,必要の都度,各人に行ったことを明らかにするものをいいます。
①金融機関の書類又はその写しで,その金融機関が行う為替取引によりその納税者からその国外居住親族に支払いをしたことを明らかにする書類
②いわゆるクレジットカード発行会社の書類又はその写しで,そのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等及びその商品等の購入等の代金に相当する額をその納税者から受領したことを明らかにする書類
私の経験則では,上記「親族関係書類」と「送金関係書類」の収集は相当手間と時間がかかります。
よって,年末調整時に慌てて外国人労働者へ書類準備を指示しているようでは滞りなく年末調整実務を進めることができませんので,早めの対応が望まれます。
給与か外注費か
不動産仲介会社の経理でよく見かけるのですが,営業社員の人件費を給与ではなく外注費で支払っているケースがあります。
法人は給与を支払う場合は社会保険に加入しなければならないのでそれを避けるためと,外注費だと消費税の計算上控除できるので納税額が少なくなること(給与の場合は控除できない),の2つが主な理由ですが,よくよく話を伺ってみると完全に給与にすべき内容であることが多いです。
そこで,給与と外注費の判断基準と,給与にすべき費用を外注費としている場合の税務リスクを以下にご説明します。
<給与と外注費の判断基準>
最高裁昭和56年4月24日第二小法廷判決(民集35巻3号672頁)によれば,給与とは,雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいいます。
これに対し外注費とは,(受け取る側から見て)自己の計算と危険において独立して営まれ,営利性,有償性を有し,かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる給付をいいます。
給与支給者との関係において何らかの空間的,時間的な拘束を受け,継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり,その対価として支給されるものである場合は給与に該当する,というのが最高裁の判断です。
また,消費税基本通達1-1-1では,個人事業者と給与所得者の区分として,次の4つの要件を総合勘案して判定する,としています。
①その契約に係る役務の提供の内容が他人の代替を容れるかどうか。
②役務の提供に当たり事業者の指揮監督を受けるかどうか。
③まだ引渡しを了しない完成品が不可抗力のため滅失した場合等においても,当該個人が権利として既に提供した役務に係る報酬の請求をなすことができるかどうか。
④役務の提供に係る材料又は用具等を供与されているかどうか。
以下,補足します。
①他人が代行して業務をすることができるのであれば外注費,できないのであれば給与
②指揮監督を受ける場合は給与,受けない場合は外注費
③成果物を納品しなくても報酬を請求できる場合は給与,請求できない場合は外注費
④経費を自己負担していれば外注費,自己負担していなければ給与
一般的な会社では,A社員に頼んだ業務を第三者(下請け等)が代替することはありませんし,上司の指揮監督下で業務を行いますし,頼んだ業務が完成しなくても報酬は支払われますし,経費は会社が負担します。
よって,社員一人ひとりと請負契約書などを作成して形式的に外注費のような体裁を整えても,上記の判断基準に照らして実質的に給与であると判断されれば,その会計処理は否認されますので注意が必要です。
外注費とした会計処理が否認され,給与であると認定された場合,まずは消費税の納税額が増加します。消費税の計算上仕入税額控除していた外注費が否認され控除できなくなるためです。
次に,外注費として会計処理をした際に所得税を源泉徴収していなかった場合には,給与からは所得税を源泉徴収しなければならないので,過去に遡って所得税を源泉徴収する必要があります。報酬を受け取った社員が過去に確定申告しているから納税関係は完結しているはずだ,という理屈は通用しません。
源泉徴収は法人の義務だからです。
そして,消費税や源泉所得税の追徴税額に加え,過少申告加算税や不納付加算税,延滞税も課税されます。
不動産業界では完全歩合制だからという理由で安易に人件費を外注費として会計処理する慣行があるようですが,完全歩合制であっても実質的に判断して給与であるケースは多いので,外注費としての会計処理には注意が必要です。
仮想通貨に関する税務の取扱い
昨年11月から12月のたった1ヶ月の間に3倍以上に急騰した「ビットコイン」や,仮想通貨交換会社コインチェックから大量に流出した「NEM」が話題になっておりますが,今回はこれら仮想通貨に関する税務の取扱いを概観してみます。
まず,課税の問題が生じるタイミングは当然ながら所得(利益)が生じた時ですが,具体的には次のような場合に課税の問題が生じます。
①仮想通貨を売却(円やドルに換金)したとき
②仮想通貨で商品を購入したとき
③仮想通貨と仮想通貨を交換したとき
④マイニングにより仮想通貨を取得したとき
※マイニングとはブロックチェーンでの複雑な計算作業を行った対価としての報酬を仮想通貨で得ること。
①は100で購入した仮想通貨を120で売却した際の差額20が利益となり課税され,④はもらった仮想通貨そのものが利益となり課税されます。これらは比較的解りやすいと思いますが,②と③は具体例を用いて解説します。
<②の具体例>
3月9日 100万円で2ビットコインを購入した。
9月9日 7万円の商品購入に0.1ビットコインを支払った
この場合,0.1ビットコイン(簿価5万円)で,7万円の商品を購入できたことになりますので,2万円が利益となり課税されます。
<③の具体例>
3月9日 100万円で2ビットコインを購入した。
9月9日 1ビットコインを他の仮想通貨と交換した。交換時の他の仮想通貨の時価は60万円だった。
この場合,1ビットコイン(簿価50万円)で,60万円の他の仮想通貨と交換できたことになりますので,10万円が利益となり課税されます。
利益を計算するには保有している仮想通貨の簿価を適正に把握しておく必要がありますが,同一の仮想通貨を2回以上にわたって取得した場合における簿価の算定は移動平均法により計算します(継続適用を条件に総平均法によることもできます)。
次に所得区分ですが,仮想通貨により生じた所得は原則として雑所得に該当します。
但し,個人で事業を行っている人が,事業用資産として仮想通貨を保有し,これを決済手段として使用している場合には事業所得に該当します。
また,あまり例は無いと思いますが,仮想通貨による利益で生計を立てている場合も事業所得に該当します。
事業所得に該当しますと他の所得(給与所得や不動産所得など)との損益通算が可能となりますが,雑所得の場合は他の所得との損益通算はできません。
よって,仮想通貨により損失が生じた場合であっても税務上は何ら考慮されないケースがほとんどです。
よくある間違いとしては,給与所得者が副業で仮想通貨取引やFX等を行っている場合に,その仮想通貨取引等で生じた損失を給与所得と相殺して確定申告するケースが散見されますが,これは誤りです。
ちなみに,年末調整済みの給与所得者は他の所得が20万円以下の場合,確定申告は不要です。
但し,医療費控除や住宅ローン控除を適用するため確定申告する場合には,他の所得が20万円以下であってもこれを除外することはできません。
仮想通貨は一応通貨ですので商品購入などの決済手段として使用できますが,仮想通貨そのものの価値が変動するため,常に課税の問題と隣り合わせですので注意が必要です。
賃貸不動産における小規模宅地等の特例の見直し
昨年12月14日に平成30年度税制改正大綱が公表され,相続税における小規模宅地等の特例について要件が改正されることになりました。
小規模宅地等の特例とは,個人が,相続又は遺贈により取得した財産のうち,その相続の開始の直前において被相続人等の事業の用に供されていた宅地等又は被相続人等の居住の用に供されていた宅地等のうち,一定の限度面積までの部分については,相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上,80%又は50%を減額するという制度です。
賃貸不動産等の貸付事業用宅地等の場合は,相続税の申告期限まで事業継続し保有している等の一定の要件を満たせば,200㎡まで50%の評価減を受けることができます。
今回の税制改正大綱では,次のような文章で要件が追加されました。
「貸付事業用宅地等の範囲から,相続開始前3年以内に貸付事業の用に供された宅地等(相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている者が当該貸付事業の用に供しているものを除く。)を除外する。」
当該要件が追加されたことにより,相続対策として賃貸不動産を購入しても,購入してから3年以内に相続が開始した場合には,その購入した賃貸不動産に対しては小規模宅地等の特例は適用できなくなります。
但し,もともと不動産貸付業を事業的規模で3年以上行っている者についてはこの要件は適用されません。
つまり,事業的規模で3年以上不動産貸付業を行っていた者が,亡くなる3年内に購入した賃貸不動産であっても小規模宅地等の特例の適用があるということです。
尚,事業的規模か事業的規模以外かの判断基準は,所得税基本通達26-9にある所謂「5棟10室基準」が採用されるものと思われます。すなわちマンションやアパート等の場合は室数がおおむね10室以上,戸建ての貸家の場合はおおむね5棟以上で,事業的規模と判断されます。
これらをまとめますと以下のようになります。
相続開始までの3年間=A期間として,
<A期間に新たに貸付事業を開始した人>
A期間に購入した賃貸不動産について小規模宅地等の特例の適用無し
<A期間以前から貸付事業を行っているが事業的規模ではない人>
A期間に購入した賃貸不動産について小規模宅地等の特例の適用無し
<A期間以前から貸付事業を行っていて事業的規模である人>
A期間に購入した賃貸不動産について小規模宅地等の特例の適用あり
この改正により,相続開始直前にタワーマンション等を購入して一時的に相続税の課税財産を圧縮するというような相続対策は不可となりまた。
少なくともこうした相続対策を検討する場合には3年以上の年数が必要となりましたので,早め早めに対応する必要があります。
この改正は平成30年4月1日以後に開始する相続から適用されます。
但し,平成30年3月31日以前に取得した賃貸不動産については適用されません。
よって,新たに賃貸不動産による相続対策を検討している人で,これから3年以内に相続が開始しそうな場合には,平成30年3月31日までに物件を購入しますと滑り込みセーフとなります。