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税法における事業と業務の違い

2018-06-29(金) 13:33:55

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「〇〇を事業として行っている」と「〇〇を業務として行っている」は,日本語としては両者にそれほど大きな差は無いように感じますが,所得税法においては事業から生ずる所得は事業所得,業務から生ずる所得は雑所得というように明確に区分しており,その取扱いにおいて天と地ほどの差があります。

 

ところが所得税法においては事業とは何かの明確な定義規定が無く,政令(所令63)において「対価を得て継続的に行う事業」が事業所得に該当すると定めているに過ぎません。

 

この点につき最高裁(注1)は,「『対価を得て継続的に行う事業』に該当するか否かは,結局,一般社会通念に照らして決めるほかないと思われるが,その判断に際しては,営利性・有償性の有無,継続性・反復性の有無のほかに事業としての社会的客観性の有無が問われなければならず,この観点からは,当然にその取引の種類,取引における自己の役割,取引のための人的・物的設備の有無,資金の調達方法,取引に費やした精神的,肉体的労力の程度,その者の職業・社会的地位などの諸点が,検討されなければならない」としています。

 

さて,所得税法における事業と業務の取扱いの違いの筆頭に挙げられるのは,損失が生じた場合です。

 

事業所得の計算上生じた損失は,一定の順序によりまずは他の所得から控除します。いわゆる損益通算です。そして,この損益通算をしてもなお控除することができない金額は,翌年以後3年間繰越すことができます。

一方,雑所得の計算上生じた損失は,無かったものとされ損益通算さえ適用されません。

 

また事業専従者に対する人件費は,事業所得においては青色事業専従者給与(青色申告の場合)又は事業専従者控除(白色申告の場合)として必要経費に算入することが認められますが,雑所得の場合は一切認められません。

 

債権の貸倒損失については,事業の場合にはその損失が生じた年分の必要経費に算入されますが,業務の場合には収入金額に計上されていた年分に遡って収入金額から減額されます。

 

貸倒引当金は,事業の場合には一定の方法により計算した繰入限度額までの計上が認められますが,業務の場合には認められません。

 

次に,建物の貸付けによる所得は規模の大小に関わらず不動産所得に該当しますが,不動産所得の場合にも,それが事業的規模で行われている場合とそうでない場合とで取扱いの違いがあります。

 

不動産所得の場合には,事業的規模で行われているか否かの目安として,いわゆる5棟10室基準というものがあり,貸与する集合住宅がおおむね10室以上か,貸与する独立家屋が5棟以上の場合には事業的規模で行われているものと判断されます(所基通26-9)。

 

不動産所得における事業と業務の取扱いの違いの筆頭に挙げられるのは,資産損失の取扱いです。

事業の用に供される固定資産について,取壊し,除却,滅失等により生じた損失の金額は,その損失が生じた年分の必要経費に算入されますが,業務の用に供される資産の損失の金額は,その損失が生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入されます。

 

例えば,事業的規模でないアパートを取壊した場合には,その取壊しによる損失の計上により不動産所得が実態としてマイナスになることが予想されますが,所得金額の計算上はマイナスにはならず,切り捨てられることになります。その結果,損益通算や翌年以降への繰越しも当然できません。

 

このように,所得税法では事業か業務かでその取扱いを異にし,最終的には税額にも影響しますが,一方,消費税法では「国内において事業者が行った資産の譲渡等及び特定仕入れ」を課税対象としており,その規模は問わないこととしているので,事業者が行う資産の譲渡等が所得税法における業務に該当する場合であっても,消費税の納税義務が生じることは当然あり得るので注意が必要です。

 

(注1)最高裁昭和53年10月31日判決・訟月25巻3号889頁