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修繕費か資本的支出か
自社使用であっても賃貸用であっても,建物を所有していますと大なり小なり毎年何らかの修繕を行うことがあると思いますが,その修繕に係った費用が支払った時点の一時の費用となるのか,或いは減価償却資産として数年間の費用となるのか,それにより税金の額は大きく変わります。
上記に関する注目すべき裁決事例が公表されましたので,今回はそれをご紹介します。
<システムキッチンの取替工事費用 H26.04.21裁決>
不動産貸付業を営むAは,賃貸用マンションの流し台等の取替工事に係る費用約500万円を修繕費として不動産所得の必要経費に算入して申告した。
後日,税務調査があり,課税庁は,当該費用は減価償却資産の新規取得に該当するため,適正に計算した減価償却費約33万円だけが必要経費となり,残りの約467万円は翌年以降,順次,減価償却費として必要経費に算入することになる,よって,467万円は経費の過大計上となるため修正が必要であり,追徴税額は約150万円になると主張した。※金額は説明上,設定した仮の金額です。
納税者Aの主張の概要
本件建物は築後17年が経過し,各設備の劣化も目立つようになっており,賃料も当初と比較して下がり,空室も目立つ状況にあった。
本件修繕工事は,居住用機能を回復させるための工事であり,建物の躯体に影響を与えるものではない。
また,建物の使用可能期間を延長させることもなければ,その価値を高めるものでもない。更に,修繕後の賃料の引上げも行っていないため,よって,修繕の目的は現状維持することである。
課税庁の主張の概要
本件修繕工事は,見積書等によれば,既存の資産を解体し,単価の違いはあるものの,新たにシステムキッチン,洗面化粧台及びユニットバス等の資産の取付け並びに既存の資産の解体等に係る費用であると認められる。
また,Aは,流し台等を取替えないと一世帯の賃貸機能が満たされないため,空室になったところから新品のものへ取替えを行った旨主張しているが,それはつまり本件修繕工事が,通常必要と考えられる修繕費用ではなく,劣化した既存の資産を新品に取替えることによって,建物本体の価値を高めるものであると認められる。
従って,本件修繕費用は,本件建物に設置された内部造作のための資本的支出に該当し,通常の維持管理のための修繕費には該当しない。
国税不服審判所の判断
建物に対する修理,改修等のための費用が,修繕費或いは資本的支出として新たな減価償却資産の取得のいずれに該当するかについては,その支出した金額の内容及び支出効果の実質によって判断するのが相当であり,本件修繕工事が本件建物の住宅の居住用機能を回復させる目的があったとしても,本件建物の規模との比較のみによって判断するものではない。
そして,本件修繕工事の内容は,既存の台所及び浴室を全面的に取壊し,新たなシステムキッチン及びユニットバスを設置し,台所及び浴室を新設したものであり,本件修繕費用は,それらの台所及び浴室を新設したことによって本件建物の価値を高め,又はその耐久性を増すことになると認められ,本件建物に対する資本的支出に該当するから,修繕費とされる通常の維持管理のための費用とは認められない。
本件のポイント
賃貸用マンションの場合,壁紙や鍵の交換,エアコンやガスコンロ等を単体で交換,修理するような費用は,経年劣化を原状回復するための費用であり,修繕費として支払った時点の一時の費用で良いと思いますが,システムキッチンやユニットバスを交換した場合は,機能も大幅に向上しているでしょうし,経年劣化の回復とか,単なる交換とは呼べず,やはり資本的支出として減価償却資産に該当するという判断が常識的であるように思います。
養子縁組と相続税
いよいよ平成27年1月から,相続税の基礎控除引下げ&税率の引上げとなりました。
これにより,これまで相続税が課税されてなかった層にも課税されるようになり,大都市の場合,「自宅+多少の金融資産」を相続しただけで,相続税が課税される可能性が高くなります。
そんな中,最近,相続税を減少させるシンプルな方法として注目されているのが「養子縁組」です。
養子縁組には「普通養子」と「特別養子」の2種類の制度があり,通常,相続対策として用いられるのは専ら普通養子です。
普通養子制度は,20歳以上の養親になろうとする者と,養子になろうとする者の合意のみで行うことができ,また,婚姻と同様に両当事者の合意による離縁も認められています。
養子縁組をしますと養親の子が増えます。民法上は,養子縁組は何人とでも行えます。血縁上の実子と養子との間に相続や扶養等につき法律上の差異はありません。
また,よく誤解されがちですが,養子縁組を行っても実の親との親子関係は消滅しませんので,養子縁組により養親の子になっても,実の親の相続人であることに変わりはありません。
養子縁組をしますと,次の4つの観点から相続税の節税に繋がります。
1.基礎控除額の増加
遺産に係る基礎控除額は,「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算するのですが,養子縁組をすることにより法定相続人が増えるため基礎控除額が増加し,結果として相続税が減少します。
ただし,基礎控除額を計算する上においては養子の数に制限があり,何人養子がいても,被相続人に実子がある場合には1人,被相続人に実子がない場合には2人までしか法定相続人にカウントされません。
そうしませんと,養子縁組を利用して理論上は無限に法定相続人の数を増やすことができてしまうからです。
2.法定相続人の増加による累進税の緩和
相続税は超過累進税率を採用しているため,法定相続人が増えることで1人当たりの課税価格が減少し,全体の累進税率が緩和され,結果として相続税の総額が減少します。
ただし,相続税を計算する上において,養子の数が制限されるのは基礎控除と同様です。
3.生命保険金・退職手当金の非課税限度額の増加
生命保険金・退職手当金の非課税限度額は,それぞれ「500万円×法定相続人の数」で計算しますので,法定相続人が増えますと非課税限度額が増えます。
ただし,相続税を計算する上において,養子の数が制限されるのは基礎控除と同様です。
4.相続一代飛ばしによる相続税負担の軽減
孫を養子にした場合,その養子に財産を相続させた分だけ相続を一代飛ばすことができます。
ただし,養子に限らず孫が相続しますと,通常の相続税額の2割増で納税する必要があります(2割加算制度)。
しかし,2割加算制度の対象になったとしても,上記節税効果がなくなるわけではありませんので,節税効果と2割加算とを比較し,孫にどれくらいの財産を相続させるのがベストであるか充分に検討することが重要です。
実務上の留意点
孫が複数いる場合には,養子縁組する孫としない孫がもめないように配慮する必要があります。また,養子縁組により法定相続人が増えることを歓迎しない他の法定相続人がいることもありますし,孫を養子にしますと結果として親子で兄弟となりますので,当事者はもちろんのこと関連する方々の理解が必要となります。
単に相続税対策ということだけではなく,孫が次世代の後継者として予定されている場合には,養子縁組は是非とも活用したい制度であると言えます。
現在検討されている注目すべき新しい税制
政府・与党は次々と新しい税制の導入を検討しています。以下にそのいくつかをご紹介します。
<消費税の軽減税率導入>
衆議院選挙の結果を受けて,自民党と公明党は連立政権合意を結び,消費税の軽減税率について「消費税率10%時に導入する」と明記しました。
食料品等の生活必需品は税率8%に留めるという内容のようです。
ちなみに日本税理士会連合会は軽減税率導入には反対の姿勢を示しています。
その主な理由は,税収の減少,低所得者対策効果としては限定的,対象項目の合理的判定が困難,適用範囲を巡る訴訟の増加,納税者の事務負担増大等です。私も軽減税率導入には反対です。
<出国税の導入>
有価証券を売却して利益を得た時の課税権は売却した人の居住国にあります。
日本で売却すれば日本に課税権がありますが,他国で売却した場合は他国に課税権があります。世界中には色々な国がありますので有価証券を売却した利益に対して課税していない国(香港やシンガポール等)もあります。
そこで,巨額の含み益がある有価証券を持ったままシンガポールへ出国し,日本の非居住者になってからその有価証券を売却しますと,日本の課税権は及ばないので日本の税金は課税されず,且つ,シンガポールはもともと有価証券売却益は非課税なので結果として何ら課税されないこととなります。
これをシャットアウトする税制が出国税です。
日本から出国する際に,所有している有価証券を売却していなくても,売却したものとみなして課税する制度です。政府は2016年からの導入を目指しています。
<結婚・出産・育児支援のための一括贈与>
現在の税法では,親や祖父母が子や孫に対して結婚や出産の御祝い金を渡しても,社会通念上の範囲内であれば贈与税は課税されません。
しかし,将来結婚や出産するであろうということで御祝い金を予め渡しますと贈与税課税の問題が出てきます。
そこで政府は,子や孫の結婚・妊娠・出産・育児を支援するために贈与する場合には,信託銀行に信託する等の条件を付した上で,1,000万円の非課税枠を設けることを検討しています。
具体的には,現行の「教育費を一括贈与した場合の非課税制度」と同様の仕組みで,親や祖父母が信託銀行に資金を信託し,子や孫は結婚や育児に関する領収書を信託銀行に提出してお金を引き出し,これについては非課税とし,子や孫が50歳に達した時点で口座に残っている資金については贈与税を課する,というものです。
この制度を利用して,祖父母が生まれたばかりの孫に一括して贈与しますと,銀行は最長で57年間(50年+更正期限7年)も領収書等を管理する必要があります。半世紀以上です。本当に適正に管理できるのか,疑問です。
<番外編:ふるさと納税>
最近,注目のふるさと納税ですが,自治体から受領した特産品の経済的利益は,一時所得として課税の対象となりますから要注意です。国税庁のHPにも掲載されています。
尚,一時所得は50万円までは課税されませんので,受領した特産品の合計の時価が50万円以下であれば,他に一時所得がない限り,課税の心配はありません。
12月の駆け込み節税
<株で利益を出した人>
一般的には利益の20%が譲渡所得税として課税されますが,含み損の株式を年内に売却しますと利益と損失が相殺され節税となります。
継続所有したい株の場合は売値で買い戻しましょう。
<今年の贈与は12月までに>
基礎控除110万円の一般贈与税は暦年単位課税ですので贈与予定の方は12月中に行いましょう。
200万円を贈与したい場合,全額を12月に贈与しますと贈与税は9万円※1となりますが,12月と翌年1月にそれぞれ100万円贈与しますと,それぞれ基礎控除以下となり贈与税は0円です。
※1 (200万円-110万円)×税率10%=9万円
<ふるさと納税も暦年単位>
人にもよりますが年収1,000万円の人が8万円寄付しますと税金が7.8万円減となり実質負担2,000円です。
しかも各自治体は特産品を用意していますので,2,000円均一の通販のようなものです。
<消費税の届出>
H27年に消費税課税事業者となる方で簡易課税の適用を受けたい方,或いはH26年まで簡易課税の適用を受けていたがH27年では受けたくない方,いずれも年内に届出が必要です。
簡易課税の適用の有無で,場合によっては大幅に税額に差が生じることがありますので慎重に対応して下さい。
<小規模企業共済>
小規模企業共済は会社役員又は個人事業主の駆け込み節税の定番で,実質的に積立貯蓄であるにも関わらず最大月額7万円が所得控除されます。
年内に12ヵ月分84万円を一括前納しますと全額所得控除が可能です。但し,副業アパート経営のサラリーマンは対象外です。
<経営セーフティー共済>
経営セーフティー共済は最大月額20万円が必要経費になる実質積立貯蓄制度です。
積立上限は800万円で,40ヶ月経過すれば任意解約でも全額返金されます。
支払時に必要経費計上,返金時に雑収入計上ですから,正確には節税というよりは課税の繰延ですが,一時の納税を回避するには便利な制度です。
年内に12ヵ月分240万円を一括前納しますと全額必要経費計上可能です。
残念ながら不動産所得の個人は対象外で,法人ならば不動産賃貸業でも加入できます。
<家賃を年払いに変更>
月払い家賃を年払いに契約変更して年内に1年分前払いしますと,継続適用を条件に1年分全額が年内の必要経費となります。
弁護士や税理士の顧問料は1年分前払いしても全額経費は無理です(判例有)。
いずれの方法も詳細な条件を確認の上ご活用下さい。
改めて贈与の基礎知識
民法上,贈与とは,贈与者が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し,これを受贈者が受諾することによって効力が生ずる契約です。
「あげますよ。」「はい,もらいます。」という関係が必要で,一方的に「あげます。」だけでは贈与契約は成立していないと考えます。
贈与の時期について,民法は,「贈与契約が成立した時点」としていますが,これを税法にそのまま当てはめると様々な課税上の問題が生じます。
そこで税法では,「贈与契約が成立した時点」=「贈与税の納税義務が成立」とはしていません。明文の規定を置かずに,贈与税の納税義務は,「贈与財産を自由に使用・収益・処分する権利が受贈者に移転した時点」に成立するとしています。
課税当局の通達では,書面による贈与についてはその契約の効力の発生した時,書面によらない贈与についてはその履行の時,としています(相基通1の3・1の4共-8)。
例えば,親から子に不動産を贈与するという公正証書を作成し6年経過後に登記したとします。民法上の贈与契約成立は公正証書作成時だとしても,税法上はあくまでも登記した時です。よって,贈与契約成立から6年経過しているから贈与税は時効で課税できない,とはなりません。そのように判示した裁判例もあります(名古屋高裁H10.12.25判決等)。
また,贈与に関して頻繁に問題になるのは名義預金です。亡くなった方が相続人に黙って或いは了解を得て相続人名義で銀行口座を開設し,預金をしていたとします。この預金の名義は確かに相続人名義ではありますが,通帳の管理も印鑑の管理も亡くなった被相続人がしていたならば,それは被相続人の預金として相続税の課税の対象となります。生前に贈与によりもらっていた,という主張は通りません。その預金を使用・収益・処分することができたのは被相続人であったからです。
贈与の事実を立証するには,贈与契約書の作成は有効です。氏名と日付は印字ではなく自筆とし,出来れば公正証書が望ましいです。公正証書はちょっと手間,と思われる方は,作成した贈与契約書に任意の切手を貼って郵便局に持参しますと切手に消印を押してくれますので,これを保管しておくと贈与契約書作成日時の証明にはなります。
まだ贈与という言葉を理解できない未成年者であっても,贈与により財産を取得することは可能です。
この場合は,親権者である父母が子の代理として贈与契約書に署名押印をします。親子間の贈与であっても親権者である父母の代理行為が子に何の不利益も及ぼさないため,家庭裁判所による特別代理人の選任は不要です。
贈与後は親権者である父母が通帳と印鑑を管理し,遅くとも受贈者が成人に達したときにはこれらを本人に渡し,自由に使用・収益・処分することができる状態にしておく必要があります。
贈与を行う際には後の課税当局とのトラブルをできるだけ避けるため,整合性のある客観的な証拠を多く残すことが重要で,特に親族間の場合には証拠の一貫性と矛盾の排除に努めたいところです。