HOME >BLOG

BLOG

実効税率の計算方法

2015-07-29(水) 18:56:14

カテゴリー:

【実効税率の計算方法】

法人には様々な租税が課税されますが,その主たる税目と税率はそれぞれ次の通りです(資本金1億円以下の中小法人の場合)。

 

法   人   税 所得800万円以下15%,800万円超25.5%

地方法人税 4.4%

法人住民税 法人税の12.9%

法人事業税 所得400万円以下3.4%,400万円超800万円以下5.1%,800万円超6.7%

地方法人特別税 事業税の43.2%

 

単純に合計しますと最大で約43%となりますが,いわゆる実効税率はそのように計算するのではありません。

地方法人税,住民税及び地方法人特別税は所得金額に税率を乗じるのではなく他の税額に税率を乗じるものであること,事業税と地方法人特別税は納税額が経費に算入できることから,これらを考慮しますと,実効税率は以下のような算式から導き出すことができます。

実行税率

 

 

 

【法人税率の引下げと実効税率】

平成27年4月1日以後に開始する事業年度から法人税の税率が引き下げられ,それぞれ次の税率となります。

 

大法人   23.9%(改正前25.5%)

中小法人  年間所得800万円以下の部分15.0%(改正前同じ),800万円超部分23.9%(改正前25.5%)

 

この改正により,中小法人の実効税率は次の通りとなります。(※都道府県により若干異なります。)

年間所得400万円以下の部分 21.42%

年間所得400万円超800万円以下の部分 23.20%

年間所得800万円超の部分 34.33%

 

個人事業主の方が,そのまま個人事業主として経営してゆくか,或いは法人を設立して法人化してゆくかを悩まれるケースがありますが,税率だけで比較しますと法人化のほうが有利と言えそうです。

もっとも,個人事業が有利か法人が有利かは,所得金額や業種,家族構成や社会保険適用の有無等を総合的に勘案して判断する必要がありますので一概には言えませんが,総じて,法人化した方が有利となるケースが多いです。

 

ちなみに平成27年度税制改正大綱では,「平成28年度以降の税制改正においても法人実効税率を20%台まで引き下げることを目指して改革を継続していく」と明記されており,今後更に実行税率が引き下げられる可能性がありますが,その前提には「課税ベース拡大」があり,現行では欠損金の繰越控除制度は中小法人について100%認められているところ,今後はこれが縮小していくと思われます。

 

※欠損金の繰越控除制度

前期以前の赤字(欠損金)を,当期に生じた黒字と相殺することができる制度。相殺すると当期の黒字が減少するため,結果として納税額が減少する。

中小法人の場合は前期欠損金を100%当期黒字から控除できるが,大法人の場合は当期黒字の80%までしか控除できず,残額は来期以降での控除となる。大法人についてはこの控除割合が平成27年度以降65%,平成29年度以降は50%となることが既に決まっている。

借り上げ役員社宅

2015-06-26(金) 19:38:08

カテゴリー:

中小企業の社長が自宅を賃借する場合,「個人で借りるか」または「法人で借りるか」選択できます。

 

・個人名義で借りる場合

新規賃借するマンションの家賃が30万円として,この家賃を支払った後の手取り収入が今までと変わらないように役員報酬を増額します。

増額前の役員報酬が1,000万円で所得税住民税を合わせた税率が33%の場合,約537万円の役員報酬増額が必要となります。(※)年間家賃360万円÷(1-0.33)=約537万円

 

・法人名義で借りる場合

法人名義で借りて,社長が居住する場合,社長は法人に社宅家賃を支払う必要があります。

ではいくらの社宅家賃を支払えばよいかと言いますと,所得税基本通達にその算定方法が規定されています。

 

1.小規模住宅(床面積が99㎡(木造は132㎡)以下)の場合

この場合の社宅家賃月額は次の①~③の合計額です。

①家屋固定資産税課税標準×0.2%

②土地固定資産税課税標準×0.22%

③家屋床面積坪当たり12円

弊事務所至近(東京都港区外苑前)80㎡程度のマンションの場合,上記計算ではおおよそ5~8万円くらいです。

一方,世間相場の家賃はおおよそ30万円前後です。

 

2.上記床面積を超える住宅の場合

この場合の社宅家賃月額は次の①~③の合計額です。

①家屋固定資産税課税標準×10%(木造は12%)×1/12

②土地固定資産税課税標準×6%×1/12

弊事務所至近(東京都港区外苑前)150㎡程度のマンションの場合,上記計算ではおおよそ20~30万円くらいとなり,小規模住宅の数倍になります。

一方,世間相場の家賃はおおよそ80万円~100万円前後です。

 

3.豪華社宅の場合

プールや茶室等の設備があるような豪華社宅の場合は,上記1及び2のような算定式はなく,世間相場の家賃となります。

 

港区外苑前にある80㎡程度のマンションを月額家賃30万円で法人名義で賃借し,そこに社長が居住した場合の本人負担は5~8万円程度で済み,差額22~25万円に対して所得税課税があるわけでもありませんので,社長が自宅を賃借する場合は法人名義のほうが圧倒的に有利であると言えそうです。

 

尚,上記家賃の算定方法は,借り上げ社宅でも法人所有の建物でも同じです。

自社所有であればともかくとして,他人から賃借している建物の固定資産税課税標準なんてわからない,とお考えになる方もいらっしゃるかも知れませんが,賃借人であっても賃貸借契約書を市役所等に持参すれば,賃貸物件の固定資産税課税台帳を閲覧できます。

 

ちなみに上記のような考え方は役員社宅だけでなく,従業員社宅の場合にも当てはまります。

しかも従業員社宅の場合の家賃は上記1の半額でよいことになっています。

 

月額家賃10万円のマンションに居住している社員の給与を9万円減らし,マンションを法人名義に変更して家賃は法人から振り込むことにし,差額1万円を社員からの家賃徴収分とすれば,社員の手取り収入はほぼ変わらないまま給与額面を下げることができますので,社員の所得税住民税を減らすことが可能となります。

 

注意事項としては,個人名義から法人名義に変更する際に,物件によっては新規契約扱いとして家賃1か月分程度の手数料を要求されることがあります。

役員報酬の減額について

2015-05-26(火) 08:14:37

カテゴリー:

【役員報酬の基本】

法人税法上,役員に支給する役員報酬には様々な規制があります。

特に同族会社の場合は役員報酬をある程度自由に決定することができますので,その決定を全部認めていたら課税上弊害があるからです。

法人税法上,損金の額に算入される役員報酬は次に掲げる3つに限られています。

定期同額給与 支給時期が原則1ヶ月毎で,その支給額が毎月同額であるもの。金額が改定された場合は事業年度開始から3ヶ月以内の定時株主総会で改定されたものに限る。

事前確定届出給与 誰に,いくら,いつ支給するかを事前に税務署に届出をしたもの。

利益連動給与 上場会社のみ。詳細は割愛します。

 

同族会社の場合,①と②の適用があるのですが,②の届出をしている法人は少数ですので,実務的には①のみに注意することになり,とどのつまり,年に1度の定時株主総会でしか役員報酬を変更することができないというのが原則です。

 

しかしながら,全く例外を認めないのも現実的ではありませんので,次の場合のみ臨時の改定が認められています。

臨時改定事由による改定 役員の職制上の地位の変更,職務内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情による改定

業績悪化改定事由による改定 経営状況が著しく悪化したことその他これに類する理由によりされた改定(減額に限る)

 

【経営状況が著しく悪化したことの定義】

ここで注意すべきは,「経営状況が著しく悪化」したことの定義ですが,法人税法上はかなり限定的に解釈されており,一時的な資金繰りの都合や単に業績目標に達しなかったことは,ここでいう経営状況の著しい悪化には該当しません。

 

では,どのような場合が経営状況の著しい悪化というのかといいますと,例えば次のような場合が該当します。

①株主との関係上,業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得ない場合

②取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケ協議において,役員報酬を減額せざるを得ない場合

③業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため,取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から,経営状況の改善を図るための計画が策定され,これに役員報酬の減額が盛り込まれた場合

 

①については,株主が不特定多数であれば問題ありませんが,一般的な同族会社は株主が少数で,且つ,株主と役員が親族関係であることが多く,そのような場合においては,役員報酬を減額せざるを得ない客観的,且つ,特別な事情を具体的に説明するのは難しいと思われます。

また,③についても,わざわざ経営状況が悪化していることを取引先等の利害関係者に積極的に開示することは一般的ではありません。

一方,②については,リスケの条件として役員報酬の減額を求められたということを客観的に証明できれば良いわけですから,比較的対応は容易であるといえます。

 

【安易な減額は厳禁です】

役員報酬の減額が税務調査で否認されても,役員報酬を減額前に戻すだけ(経費が増えるだけ)であるから,税額が増えるわけではない,故に怖くないと解釈している方もいらっしゃるようですが,それは大きな誤りです。

例えば,H23.1.25裁決では,経常利益が前年比で6%減少したことから,代表取締役の役員報酬を決算月の前月に減額したところ,当該減額は業績悪化改定事由に該当しないとして,減額後の金額が定期同額給与と認定されてしまいました。

数字を用いてご説明しますと,月額100万円のままであれば12ヵ月分の1,200万円が経費として計上できるはずだったのが,期中で50万円に減額したところ,この50万円が定期同額給与と認定されてしまい,それを超える部分(50万円×12ヵ月分=600万円)が否認され,課税処分を受けてしまいました(数字は仮の数字です)。

 

このように減額前の役員報酬の一部を否認されるケースもありますので,減額と言えども役員報酬の改定は慎重に対応したいところです。

 

相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わなかった場合の不利益

2015-04-24(金) 18:10:21

カテゴリー:

相続税の申告と納税は,相続等により取得した財産の額の合計額が,遺産に係る基礎控除額を超えた場合に必要となります。

申告期限は,被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

よって原則的には,被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に,全ての財産を洗い出し,その財産を一つひとつ評価して評価額を算出し,相続人全員で誰が何をもらうかを協議し(これを遺産分割協議といいます),それを基に相続税額を計算して,申告及び納税まで済ませる必要があります。

もし仮に,遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合であっても,申告期限は延長されません。その場合は,一旦,法定相続割合により分割されたと仮定して相続税額を計算し,申告及び納税をすることになります。

 

遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合には,申告期限までに調った場合に比べて,いくつかの弊害があります。

まずは納税資金についてですが,相続税は現金一括納付が原則なのですが,遺産分割協議が調っていないので被相続人の預貯金を下すことができず,相続人は自分の固有の財産から納税資金を工面する必要があります。

相続税には延納や物納という制度がありますが,延納を申請する場合には担保を提供しなければならず,遺産分割協議が調っていない未分割の状態での延納申請は現実的ではありません。

また,未分割財産を物納申請しても物納不適格財産ということで却下されますので,物納も現実的には不可能です。

その結果,申告期限までに遺産分割協議が調わない場合の多くは,無申告及び未納という状態になるケースが非常に多いです。ちなみに納期限から2ヶ月を経過した日以降は,原則として年14.6%の延滞税が課税されます。

 

次に,税額軽減措置についてですが,遺産分割協議が調っていない場合,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」という税額軽減措置が適用できません。

「小規模宅地等の特例」とは,被相続人や被相続人の親族が,自分の仕事場として使っていた,又は,住まいとして使っていた土地については,一定の要件の下に評価額を減額してくれる制度で,その減額割合は最高80%です。1億円の土地が2,000万円の評価額になるのですからかなりの税額軽減措置であるといえます。

また,「配偶者の税額軽減」とは,配偶者が取得する財産の価額が1億6,000万円までか,或いは配偶者の法定相続分までであれば,配偶者に相続税を課税しないという制度です。こちらもかなりの税額軽減措置です。

これらの税額軽減措置は,申告期限までに遺産が分割され,適正に申告することが要件となっていますので,未分割の状態では適用できません。

その結果,納税額が大きくなり,しかもそれが未納となりがちですので,延滞税を含めた税負担は多大なものとなります。

 

尚,10ヶ月以内に遺産分割協議が調わず,取り敢えず法定相続割合で申告及び納税を済ました場合であっても,その後において遺産分割協議が調った場合には,それが申告期限から3年以内であれば,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用して相続税の計算をやり直すことが可能です。

具体的には,10ヶ月以内に取り敢えずの申告をする際に,「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書とともに提出しておき,3年以内に遺産分割協議が調って「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」の適用要件を満たすことが確定した段階で,「更正の請求」をすることになります。

「更正の請求」とは,税金の還付を請求する制度のことで,この場合には,遺産分割協議が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。

 

相続開始から10ヶ月以内に遺産分割協議が調わない場合は,申告期限から3年以内であれば後で取り戻すことができるとはいえ,一旦は多額の相続税の納税が必要となることから,元々納税資金不足であった場合には非常に大きなリスクとなります。

故に,10ヶ月以内に申告できるよう,生前から対策を検討することが賢明と言えます。

結婚・子育て一括贈与

2015-03-30(月) 13:40:17

カテゴリー:

今年の税制改正では「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設されます。制度の概要は以下の通りです。

 

贈与を受ける人(子や孫・20歳以上50歳未満)の結婚・子育て資金の支払いに充てるために,親や祖父母が金銭等を拠出し,金融機関に信託等をした場合には,子や孫1人につき1,000万円までは贈与税が課税されないという内容で,概ね教育資金一括贈与の非課税特例と同様です。

 

<扶養義務者相互間贈与はそもそも非課税ですが…>

1,000万円贈与しても贈与税が課税されないと聞くととても素晴しい制度だと思う方もいらっしゃるかも知れませんが,実はそうでもありません。

 

相続税法では「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」は贈与税非課税と規定しています(相法21条の3)。

 

扶養義務者とは,配偶者・直系血族及び兄弟姉妹・3親等内の親族で生計を一にする者をいいますので(民法877),親や祖父母が子や孫の入学金・挙式費用・出産費用等を「都度」負担してあげても,実はもともと贈与税非課税です。わざわざ金融機関と信託契約する必要はないし,税務署や金融機関にこれらの領収書を提示する必要もありません。

 

但し,「都度」負担するのではなく,まだ幼い子供の入学金や結婚費用として合計1,000万円を予め贈与しておく,というような場合は,もともと贈与税非課税とはいえなくなります。

 

よって,今回創設された制度は,「都度」払いであれば贈与税非課税であるものを,「一括」払いにさせるための制度であり,仮に当該制度を活用する場合は,この辺りの違いをきちんと理解しておく必要がありそうです。

 

 

<教育資金一括贈与と結婚・子育て一括贈与の違い>

教育資金一括贈与の非課税特例と結婚・子育て一括贈与の非課税特例は,制度概要は似ておりますが,次表のような違いがあります。

 

教育資金一括贈与 結婚子育て一括贈与
非課税限度額 1人1,500万円 1人1,000万円
拠出期限 平成25年4月1日~平成31年3月31日 平成27年4月1日~平成31年3月31日
受贈者の年齢制限 30歳未満 20歳以上50歳未満
年齢制限前に受贈者が死亡した場合 贈与税課税なし

残額は受贈者の相続財産

贈与税課税なし

残額は受贈者の相続財産

年齢制限前に贈与者が死亡した場合 残額があっても相続税課税なし 残額は相続税の課税対象となる

 

 

<結婚・子育て一括贈与の最大の欠点>

結婚・子育て一括贈与の非課税特例の最大の欠点は,贈与者が死亡した場合に,一括贈与した資金のうちまだ使用していない残額がある場合には,その残額に対して相続税が課税されるということです。

 

これに対し,教育資金一括贈与の非課税特例は,贈与者が死亡した場合に,一括贈与した資金のうちまだ使用していない残額があったとしても相続税の課税はありません。

 

よって,両制度のうち相続対策として活用できそうなのは,教育資金一括贈与のほうであると言えます。

 

<他の贈与特例との併用>

上記以外にも贈与税には特例措置があり,これらとの併用も可能です。

暦年贈与基礎控除(年間110万円)又は相続時精算課税贈与(特別控除2,500万円),直系尊属からの住宅取得等資金非課税贈与特例(最大3,000万円又は1,500万円,重複適用可能)・教育資金一括贈与の特例(最大1,500万円)・結婚子育て一括贈与の特例(最大1,000万円),これらを併用しますと,総計7,000万円以上の贈与が非課税で可能となります。