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保険料贈与プランによる節税対策と納税資金対策
相続税の納税資金対策として,親が子に生命保険の保険料相当額の現金を贈与し,子がその現金で親を被保険者とする生命保険契約を締結するという「保険料贈与プラン」があります。以下,概要を解説します。
<例>
①父から子へ現金贈与(金額により贈与税課税)
②子が生命保険に加入
契約者:子 被保険者:父 保険金受取人:子
父が亡くなったら保険金を子が受け取る契約
③贈与によりもらった現金で保険料を支払う
父が亡くなると子が死亡保険金を受け取りますので,それを相続税の納税資金に充てようというプランです。
父自身が契約者及び保険料負担者となって生命保険に加入する一般的なケースでは,その死亡保険金は相続税の課税対象となってしまいますが,子が契約者及び保険料負担者であれば,死亡保険金は相続税の課税対象とはならず,子の一時所得として所得税の課税対象となるので有利です(注1)。
この方法によれば,収入の無い子(幼児や学生)であっても生命保険料を支払うことが可能となり,親から現金贈与を受けた子が直ちに生命保険会社に保険料を支払うようにしておけば,手元に贈与資金が滞留することなく,子の金銭感覚や生活感を狂わせることはありません。
贈与する金額は暦年贈与の基礎控除内である110万円以下でも構いませんが,年間110万円の保険料で確保できる死亡保険金は70歳男性で1,500万円程度,70歳女性で2,000万円程度に過ぎません。
そこで,多少の贈与税を負担しても少し多めに贈与し,確保できる死亡保険金をもう少し上積みしたいところです。例えば,年間310万円を贈与したことによる贈与税は20万円(※2)ですが,税引後の290万円の保険料であれば,70歳男性の場合で約4,000万円,70歳女性の場合で約5,600万円の死亡保険金を確保できます(※3)。
この「保険料贈与プラン」を実行する場合には,次の点に留意が必要です。
①贈与者(父)から受贈者(子)への贈与は,贈与者の預金口座から子の預金口座へ振込みにより実行すること。
②保険料は子の預金口座から自動振替により支払うようにすること。
③毎年,贈与契約書を作成し,必ず贈与税の申告をすること。
④毎年の贈与契約書と贈与税申告書の控えは全て保管しておくこと
⑤保険料を負担している子以外の所得税確定申告で,当該保険契約に係る生命保険料控除を適用しないこと。
これらの留意点を充足しない場合は保険料相当額の贈与があったものとは認められず,保険料はあくまでも父が負担していたものとして,その死亡保険金は相続税の課税対象であると認定されてしまうこともありますので注意して下さい。
注1:子の収入によっては必ずしも有利とはいえない場合があります。
注2:(310万円-110万円)×10%=20万円
注3:事例の死亡保険金は年払変額終身保険に加入した場合の目安です。
参考:国税庁事務連絡(昭和58年9月)「生命保険料負担者の判定について」
山本和義「相続対策の基礎知識と標準業務の進め方」271頁(清文社,2014)
直系尊属から贈与を受けた場合の税率の変更
贈与税には暦年課税(1年間の贈与に対して課税)と相続時精算課税(贈与時点で相続税を前払いし,相続の発生時に精算)の2種類があります。暦年課税の基礎控除は単年110万円で,相続時精算課税の非課税枠は累計2,500万円です。
暦年課税は単年で課税関係が終了しますので相続税とは関係ありませんが(一部例外有り※),相続時精算課税は累計2,500万円まで(他に特例有り)の贈与について贈与時点での課税はありませんが,相続発生時に精算するため相続税は発生する可能性があります。(※相続等により財産を取得した人が,被相続人からその相続開始前3年以内に贈与を受けた財産があるときには、その人の相続税の課税価格に贈与を受けた財産の贈与の時の価額を加算します。)
暦年課税と相続時精算課税のどちらが有利になるかは家族構成や財産額によりますので慎重な検討が必要となります。
今般,税制改正により,暦年課税の場合において,平成27年1月1日以降に,直系尊属(父母や祖父母等)から財産の贈与を受けた人(贈与を受けた年の1月1日において20歳以上の人に限ります。)のその財産に係る贈与税の額は,一般税率ではなく,課税が軽減される「特例税率」を適用して計算することになりました。
特例税率の適用を受ける場合で,次の①又は②のいずれかに該当するときは,贈与税の申告書とともに,贈与により財産を取得した人の戸籍謄本又は抄本その他の書類でその人の氏名,生年月日及びその人が贈与者の直系卑属に該当することを証する書類を提出する必要があります。
①「特例税率の適用を受ける財産」のみの贈与を受けた場合で,その財産の価額から基礎控除額(110万円)を差し引いた後の金額(課税価格)が300万円を超えるとき
②「特例税率の適用を受ける財産」と「一般税率の適用を受ける財産」の両方の贈与を受けた場合で,その両方の財産の価額の合計額から基礎控除額(110万円)を差し引いた後の金額(課税価格※)が300万円を超えるとき(※「一般税率の適用を受ける財産」について配偶者控除の適用を受ける場合には,基礎控除額(110万円)と配偶者控除額を差し引いた金額(課税価格)となります。)
12月は今年の贈与を行え得る最後の月です。十分に検討して効果的な贈与を実施したいところです。
タワーマンションによる相続税対策の問題点
ここ数年,注目されているタワーマンションによる相続税対策を再び解説します(初回はこちら)。
不動産の実際の取引価額と相続税評価額の開差を利用した相続税対策は昔から頻繁に用いられる方法であり,タワーマンションの取得はその典型例です。
例えば,タワーマンション最上階の1室を3億円で取得した場合において,その相続税評価額が6,000万円程度とすると,その差額分だけ相続税の課税対象(課税価格)が減少します。
なぜこうなるかと言いますと,相続税を計算する場合における不動産評価の方法に起因します。
すなわち,マンションは土地の敷地持分と建物持分で構成されていますが,高層マンションほど1室当たりの敷地持分が少ないため,結果として評価額が低くなり,かつ,建物の固定資産税評価額が当該マンションの建築価額や市場価格よりも相対的に低く設定されているためです。
よって,タワーマンションの場合,1階と最上階の床面積が同じであれば,相続税評価額は理論上同じになります。実際の取引価額は1階と最上階では倍以上の差があることもありますが,現行税制ではこの差は無視されます。
故に,タワーマンションによる相続税対策が,巷,推奨されているわけです。
しかしながら,タワーマンションによる相続税対策については構造的問題点がありますので注意が必要です。
平成23年7月1日裁決(非公開裁決・TAINS F0-3-326)は,相続開始1ヶ月前に売買契約を締結し,2週前に所有権移転登記をしたマンションの価額について,相続税評価額(約5,800万円)ではなく,取得価額(約2億9,300万円)で評価するのが相当であるとして,納税者の相続税の申告を否認しました。この裁決の場合,課税当局は当該マンションの取得自体を否認し,当該取得代金(現金)が相続財産であると認定しています。
また,新聞報道(日経新聞H27.4.7朝刊)では,相続開始4ヶ月前に取得した賃貸マンションについて,相続税評価額(1億2,000万円)ではなく,取得価額(3億7,000万円)で評価し,課税処分が行われたようです。
いずれの事例も相続開始直前にタワーマンションを取得したことを否認されたものですが,もっとも,このような相続開始直前に不動産を取得することによる相続税対策の問題は,タワーマンションに限ったことではなく一般不動産にも言えることではありますが,タワーマンションの場合は相続人が相続開始直後に売却しなければならない事情が存するため,一般不動産よりもリスクを負っていると言えます。
なぜタワーマンションによる相続税対策は相続開始直後に売却しなければならないかと言いますと,近年,タワーマンションは乱立状態にあり,今後も多くのタワーマンションが市場に供給されると予想されますが,そうすると既存のタワーマンションの資産価値は新築時をピークに相対的に下がることはあっても上がることはほぼありません。
故に,タワーマンションによる相続税対策の場合,取得時よりも資産価値の下落が激しくない期間内に売却しておく必要があります。そうしないと,相続税の節税額よりもタワーマンションの値下がり損のほうが多額になってしまう恐れがあり,それでは何のための節税策であるかわからないからです。
しかしながら,この売却行為が相続税対策を否認する根拠になってしまうところが,タワーマンションによる相続税対策の構造的問題点だと言えるのです。
よって,相続税対策として不動産を取得する場合,タワーマンションのように資産価値の下落が激しいことが予想される物件よりも,資産価値の下落が激しくなく,場合によっては上昇するような物件(中央線沿線・城南地区等のRC賃貸物件等)を選定することが重要です。
尚,タワーマンションも自宅として購入する場合には問題ありません。相続開始直後の売却は避けたいところですが,仮に相続開始直後に売却した場合であっても自宅の場合は否認される可能性は低くなります。
参考:品川芳宣「最近の相続税節税策(スキーム)の真贋を問う!」季刊野村資産承継2015創刊号P76
法人に貸し付けている貸付金と相続税の問題
長年会社を経営していますと資金繰りがうまくいかず,代表者個人の資金を会社に貸し付け,そのまま回収できずにいるということはよくあることです。
あるいは,バブル時に積極的に不動産投資を進め,銀行借入と個人資金を会社に注ぎ込んで不動産を購入したものの,バブル崩壊とともに資産価値が目減りしてしまい,不動産を売却すれば銀行借入は返済できるが個人資金の返済はほぼ不可能という会社もよく見かけます。
このような状況において,最も問題となるのは個人資金を貸し付けている代表者の相続税です。
個人が法人へ資金を貸し付けたまま相続が発生しますと,その貸し付けた金額のうち未回収部分は「貸付金」として相続税の課税対象となります。
きちんと回収できる貸付金であれば相続税の課税対象となることに何ら問題はありませんが,回収可能性が低いのに相続税が課税されてしまうと,相続人は自己の預金から納税しなければならないという問題が生じます。
これに対し,相続税基本通達では一応の救済措置を設けていて,すなわち,その貸付金のうち「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては,それらの金額は元本の価額に算入しない」と同通達205が定めているところです。
しかしながら,課税当局の取扱いや裁判の判決事例等を考察しますと,そんなに簡単に「回収不可能」とは判断してくれません。
回収不可能と判断されるには,会社そのものが,手形交換所の取引停止処分を受けた,会社更生手続き開始の決定があった,民事再生法による再生手続き開始の決定があった,等といった事象が生じていることが必要であると規定されているのですが,会社の経営状態がここまで来ないと救済されないのであれば,本来の救済には全くなっておりません。
多くの経営者は,第三者に迷惑をかけてはいけないという思いから,金融機関などの第三者からの借入金は身銭を切ってでも返済しようとします。そして,身銭を切って返済したために会社には自己が貸し付けた貸付金だけが残ります。
ところが,それ以上の返済余力は無く,自己の貸付金の回収は一向に進まないまま時間だけが過ぎ,そのまま相続を迎えますと,回収できない貸付金という相続財産に相続税が課税されることになるのです。
先の救済措置を適用しようにも,頑張って金融機関には返済しましたので手形交換所の取引停止処分は受けてないし,会社更生手続き開始の決定等もないということで,回収不可能とは判断してもらえません。
このように,法人へ貸し付けた貸付金はそのまま放っておくと大きな問題となることがありますので,相続が発生する前に適切に処理しておくことが望まれます。
具体的には,法人に過去の欠損金が残っているような場合には,貸付金を債権放棄するという方法が考えられます。
個人が債権放棄しますと,法人は返済しなくて良くなった金額だけ贈与を受けたものとして収益が計上されますが,欠損金の範囲内であれば相殺され結果として法人税等の課税はありません。
或いは,貸付金を出資に変えるデット・エクイティ・スワップ(DES)という方法があります。
これは,個人の貸付金が有価証券に変わるわけですが,株価評価額は貸付金よりも低くなることが多いため,結果として相続税の軽減に繋がります。
いずれにしましても,法人に対する貸付金が多額にある場合は,何もしないまま放っておくと思わぬ課税を招くことがありますので,早めに対応することが賢明です。
財産債務調書制度の概要
【財産債務調書制度の概要】
平成27年度税制改正において,従来の「財産債務明細書」制度が,「財産債務調書」制度に改組されました。
平成28年1月1日以後に提出すべき調書から適用されます。
改正前において明細書を提出しなければならない者は,確定申告書を提出しなければならない者で,その年分の所得金額が2,000万円を超える者でしたが,改正後は以下のようになりました。
すなわち,財産債務調書を提出しなければならない者は,その年分の所得金額が2,000万円を超え,且つ,その年の12月31日において保有財産3億円以上か国外財産1億円以上を有する者です。
簡素に表現しますと,「所得金額2,000万円超」and「保有財産3億円以上 or 国外財産1億円以上」となります。
ちなみに,この「財産債務調書」制度とは別に,「国外財産調書」制度というものがあり,こちらは所得金額に関係なく,その年の12月31日において国外財産5,000万円以上有する者が提出しなければならないことになっています。
このような改正がなされた背景には,平成25年における相続税改正により,相続税の基礎控除が4割も引き下げられ大幅な増税が予定されることとなり,裕福層が国外に財産を移転し,相続税や贈与税の課税を逃れる事例が後を絶たないためです。
「財産債務調書」の提出義務者は,生前において,事実上の「相続財産の概算申告」をすることと同義であると考えられますので,その後の相続税の申告に当たっては,被相続人が生前に提出した財産債務調書との整合性を適正に検証する必要があります。
<加算税等の特例>
過少に申告した或いは無申告であったことによるペナルティーである過少申告加算税又は無申告加算税の税率は,過少申告加算税は10%(一定の場合15%),無申告加算税は15%(一定の場合は20%)ですが,「財産債務調書」制度及び「国外財産調書」制度については,適正な調書の提出を促すため,加算税等の特例が設けられています。
すなわち,所得税又は相続税の申告漏れがあった場合において,その申告漏れが,提出期限内に提出された調書に記載のある財産債務に起因している場合には,加算税は5%軽減され,逆に,調書の提出がないとき又は提出期限内に提出された調書に記載のない財産債務に起因している場合には,加算税は5%加重されます。
<不動産の評価>
財産債務調書に記載する財産のうち,多くを占めるのは不動産と金融資産であると推測されますが,いずれも調書に記載する価額は原則的には「時価」とされています。しかし,不動産についてはこの時価の把握が難しいため,見積価額によることも認められています。
土地の時価として認められる具体例としては,路線価を基準にした相続税評価額,最近に有償で取得した場合にはその取得価額,その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額,などが考えられます。
建物についても土地と同様に,最近に有償で取得した場合にはその取得価額,その年分の固定資産税評価額又は固定資産税課税標準額,などが考えられます。
<金融資産の評価>
調書に記載すべき金融資産の区分としては,現金,預貯金,有価証券,匿名組合契約出資の持分,未決済信用取引等に係る権利,未決済デリバティブ取引に係る権利,貸付金,未収入金が示されています。
これらのうち,現金や預貯金,貸付金や未収入金などは残高がはっきりしていることが多いと思いますが,その他については時価の把握が簡単でないものもあり,特に有価証券のうち上場していない同族会社の株式などはその典型でしょう。
このいわゆる非上場株式の時価は,実務的には相続税を計算する際に使用する「財産評価基本通達」を基に算定することになると思いますが,この評価を適正に行う場合には,過去3期分の決算書の詳細な内訳と法人税申告書が必要となり,また,会社の規模に応じて国税庁が定める類似業種株価との比較が必要となるなど,ある程度の時間と労力を要します。
提出期限間際になって慌てて専門家に依頼しても,対応が難しい場合がありますのでご注意下さい。
法人が契約している顧問税理士であっても,必ずしも個人資産を把握しているわけではないと思われますので,調書提出義務があるか無いか不安な場合には,一度,顧問税理士に相談することをお勧め致します。