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外国人への各種支払いは源泉所得税に要注意

2016-06-08(水) 17:52:51

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外国人とりわけ中国人が日本で爆買いを始めて久しく,その対象は多岐にわたりますが,不動産も例外ではありません。

2020年東京オリンピックまでは値上がりが続くと読む向きもあり,北京の不動産会社が毎月数回,不動産投資ツアー団を日本に送り込んでいるという新聞報道を頻繁に目にするようになりました。

 

さて,外国人が不動産を購入した場合,将来的にはどこかで手放す(売却する)のだと思いますが,所有している期間は賃貸に出すのが一般的です。そして,その賃借人のほとんどは当然日本人或いは日本の法人ということになりますが,その家賃を支払う際には源泉所得税に注意する必要があります。

 

そもそも源泉徴収制度とはどういった制度かといいますと,給与や報酬等を支払う際に,これらを支払う者が予めその給与や報酬等から法令により定められた一定の所得税を源泉徴収し,国に納付する制度です。

給与や報酬等を受け取った側ではなく,支払った側が源泉所得税を納付するところが特徴であり,これは法令で定められた義務です。

うっかり源泉徴収を怠った場合の言い分として,受け取った側が確定申告すれば国にとって損も得も無いという主張をする人がいますが,この主張は認められません。

源泉徴収義務を怠りますと,支払者側に不納付加算税や延滞税が課税されることもあります。

 

そして,この源泉徴収義務は外国人(=非居住者とここでは定義します)や外国法人に対する支払いについても設けられていて,不動産賃貸人が外国人或いは外国法人の場合,原則として,支払う家賃の20.42%の所得税を源泉徴収し,家賃を支払う側が国に納付しなければなりません。

 

<事例1>

A社(日本の内国法人)は港区内の事務所を賃借することになり,賃貸人であるB社(外国法人)に家賃100万円を毎月支払っていたところ,1年後に課税当局から源泉所得税の徴収漏れを指摘されました。

100万円×12ヶ月×20.42%=約245万円の源泉所得税の納付漏れです。

B社が日本国に適正に申告すれば国にとって課税漏れは生じませんが,それとは関係なく国はA社に対し源泉徴収義務の不履行を理由に課税できます。

A社はB社に約245万円の返還を要求すると思いますが,相手は外国法人で連絡もうまく取れず,結果として返還してもらえないということも考えられます。

家賃の場合は次月以降の家賃で調整するということが相手方次第で可能ですが,そうはいかないのが不動産売買の場合です。

 

爆買いで外国人に買われた不動産も,いずれは日本人或いは日本企業が買い戻すことが想定されますが,その際にも源泉所得税には注意が必要です。

すなわち,外国人や外国法人から不動産を購入した場合,購入した者がその譲渡対価の10.21%の所得税を源泉徴収し,国に納付しなければなりません。

 

<事例2>

C社(日本の内国法人)は渋谷区内のビルを購入することになり,所有者であるD(個人・非居住者)に譲渡対価5億円を支払ったところ,1年後に課税当局から源泉所得税の徴収漏れを指摘されました。

5億円×10.21%=約5,100万円の源泉所得税の徴収漏れです。

事例1と同様に,Dが日本国に適正に申告すれば国にとって課税漏れは生じませんが,それとは関係なく国はC社に対し源泉徴収義務の不履行を理由に課税できます。

C社はDに約5,100万円の返還請求をすると思いますが,相手は外国に居住していて,更に引越でもされたら所在をつきとめるのは事実上不可能です。

 

上記のようにならないよう外国人や外国法人と取引する際には,源泉徴収義務に気を付けたいところです。

 

 

※上記では便宜上,外国人=非居住者と定義しましたが,正確には以下の通りです。

 

永住者以外の居住者→国内に住所を有する個人又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人のうち,非永住者以外の者

 

非永住者→居住者のうち,日本の国籍を有しておらず,且つ,過去10年以内において国内に住所又は居所を有していた期間の合計が5年以下である個人

 

非居住者→居住者以外の個人

 

※日本国籍を有していても非居住者に該当する人や,外国籍であっても非居住者に該当しない人などもいるため,国籍や住民票の有無だけで非居住者か否かを判断することはできません。

 

相続した空き家を譲渡した場合の課税の特例

2016-05-17(火) 08:48:33

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親が居住していた不動産を相続したものの,子は既に自宅を所有している場合などは,相続した不動産が長年空き家になっていることは珍しくありません。

適切な管理の行われていない空き家は,周辺環境に悪影響を及ぼすことも多く,こうした事例を抑制するために,一定の空き家を譲渡した場合の課税の特例が設けられました。

 

<制度の概要>

相続により生じた空き家で,一定の要件を充足するものを売却した場合,その譲渡所得について,3,000万円の特別控除が適用されます。

 

<適用要件>

①家屋について

・相続開始直前において被相続人の居住用であり,且つ,被相続人以外に居住者がいなかったこと。

・S56.05.31以前に建築された家屋であること(但しマンション等の区分所有家屋は除く)。

 

②土地等について

・相続開始直前において被相続人の居住用家屋の敷地の用に供されていた土地等であること。

 

③相続開始から譲渡まで空き家であったこと

・家屋とその敷地の譲渡の場合

a.相続開始から譲渡まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

b.譲渡時において地震に対する安全性に係る規定又は基準に適合するものであること。

 

・家屋を除却して敷地のみの譲渡の場合

a.相続開始から家屋除却まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

b.敷地について相続開始から譲渡まで事業の用,貸付けの用,居住の用に供されたことがないこと。

 

④その他

・譲渡期限

相続時から相続開始があった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日まで(例:H25.3.10に相続発生した空き家の場合→H28年12月31日までに譲渡すれば特例適用可)。

 

・譲渡対価

1億円を超えるものを除く。

 

・特例の適用期限

H28.4.1からH31.12.31までの譲渡。

 

<申告手続き>

この特例は,確定申告書に,その譲渡した家屋や土地等が上記適用要件を満たしたことを地方公共団体等の長等が確認した旨を証する書類その他の書類を添付した場合に限り適用されます。

 

<他の特例との適用関係>

①相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(相続税額の取得費加算)との選択適用

②居住用財産の買換え等の特例との重複適用その他所要の措置が講じられます。

一般社団法人を活用した不動産の法人化の是非

2016-04-07(木) 20:40:13

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近年,不動産オーナーの相続対策の手法として「一般社団法人を活用した不動産の法人化」を見聞きするようになりました。株式会社を活用した場合と何が違うのか,メリット・デメリットを交え,以下,概略をご説明します。

 

<一般社団法人とは>

一般社団法人とは,「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」に基づき設立される法人です。最大の特徴は出資者が存在しないことです。株式会社のような持分を有する株主は存在せず,社員は出資者ではなく,単なる決議機関です。株式会社との主な相違点は以下の通りです。

 

  一般社団法人 株式会社
設  立     社員2名以上で設立  株主1名以上からの出資で設立
事業内容 制限なし 制限なし
持  分 無し あり
配  当 不可

※社員とは従業員という意味ではありません。

 

<相続税がゼロになるという誤解>

株式会社の株主が亡くなりますと,その株主が所有している株式が相続税の課税対象となりますが,一般社団法人の場合には株式や出資という概念が無いため,その社員や理事が亡くなっても当該一般社団法人が所有している財産に相続税は原則として課税されません。

これを理由に,一般社団法人を設立して自分が理事に就任し,個人で所有している不動産等の財産を一般社団法人に移転させれば相続税が一切かからないと喧伝している専門家や,それを信じている納税者もいるようですが,それは全くの誤解です。世の中そんなに甘くありません。

一般社団法人自体で適正に資金を準備し,適正価格で不動産を購入すれば問題ありませんが,節税を意図した多くの場合,実質的無償で不動産を移転しようとしますので,その場合には以下のような課税関係が生じます。

 

まず,不動産を移転する段階で,不動産を無償譲渡した個人に対し譲渡所得税が課税され(所法59),不動産を無償で受け入れた一般社団法人には,法人税の受贈益課税がなされます(法法22②)。

次に,一般社団法人に不動産を贈与等したことにより,その代表者等の個人の贈与税又は相続税が不当に減少したと認められる場合には,その一般社団法人を個人とみなして贈与税又は相続税が課税されます(相法66④)。

 

そして,この「不当に減少した」か否を判断する際に,「運営組織が適正であること」が重要なのですが,「組織運営が適正である」と認められるためには,理事は6人以上,監事は2人以上(理事の親族は実質不可),名目役員に給与を支払っていないこと,等の要件を満たす必要があり,個人の節税策として利用するには簡単でない要件が複数存在します(相個通15)。

 

<メリット・デメリット>

上記の通り,無償で財産を移転しますと一般社団法人であっても株式会社の場合と同様に課税上の問題が生じますが,適正な手段及び価格で財産を移転した場合にはメリットもあります。

まず,賃貸不動産等の収益を生む財産を移転した場合において,移転後の税引後利益がどんなに膨らんでも,そこに相続税は課税されません。

次に,仮に個人として破産した場合であっても,一般社団法人が所有している財産は個人のものではありませんので,何ら影響ありません(いわゆる倒産乖離)。

一方,前述した税務以外のデメリットとしては,どんなに利益(内部留保)が溜まっても配当できません点が挙げられます。

また,受け入れた基金の返還には一定の制限がありますので,個人としては実質的に財産権を放棄したことと近くなります。

 

<結論>

不動産の法人化を検討する場合,現行法令上は,株式会社や合同会社で対応したほうが良さそうです。

住宅取得資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税

2016-02-29(月) 22:13:29

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父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得資金の贈与を受けた者が,その贈与を受けた年の翌年3月15日までにその住宅取得資金を自己の居住用家屋の取得の対価に充てて,且つ,同日までに居住を開始した場合には,その贈与を受けた住宅取得資金のうち一定金額について,贈与税が非課税となります。

 

この,上記一定金額すなわち非課税限度額が,平成27年から改正されていますので,以下,概略をご説明します。

 

まず,大きな改正点として,非課税限度額の区分が「住宅取得資金の贈与を受けた日」から「住宅用家屋の取得に係る契約の締結日」に変更されました。

 

〇各年分の非課税限度額は以下の通りです。

(イ)下記ロ以外の場合

住宅用家屋取得の契約締結日 良質な住宅用家屋 左記以外
平成27年01月~平成27年12月 1,500万円 1,000万円
平成28年01月~平成29年09月 1,200万円 700万円
平成29年10月~平成30年09月 1,000万円 500万円
平成30年10月~平成31年06月 800万円 300万円

 

(ロ)住宅用家屋の取得に係る消費税等の税率が10%の場合

住宅用家屋取得の契約締結日 良質な住宅用家屋 左記以外
平成28年10月~平成29年09月 3,000万円 2,500万円
平成29年10月~平成30年09月 1,500万円 1,000万円
平成30年10月~平成31年06月 1,200万円 700万円

 

尚,「良質な住宅用家屋」とは,省エネルギー対策等級4以上であること,耐震等級2以上であること等の要件を満たすことにつき,一定の書類により証明されたものをいいます。

 

平成27年中に住宅用家屋の取得契約を締結した場合

平成27年中に住宅取得資金の贈与を受けて,同年中に住宅用家屋の取得契約を締結した場合の非課税限度額は良質家屋で1,500万円・それ以外で1,000万円ですが,物件の引渡し時期については注意が必要です。

 

そもそも,この住宅取得資金の贈与税の非課税制度は,贈与を受けた年の翌年3月15日までに居住開始することが要件の1つとなっていますので,仮に工事期間延長等の理由で引渡し時期が遅れ,3月15日までに居住開始ができなくなってしまった場合には,この制度の適用はありません。

 

また,物件引渡しが平成28年である住宅用家屋の取得契約を平成27年中に締結した場合の非課税限度額は,契約締結日で判断しますので,上記と同様に良質家屋で1,500万円・それ以外で1,000万円です。

この場合,住宅取得資金の贈与を受けるのは,当然,平成28年中ということになります。平成27年中に贈与を受けても,この制度の適用はありません。

 

平成28年中に住宅用家屋の取得契約を締結した場合

平成28年の非課税限度額は,契約締結日と消費税率により区分されます。

 

まず,9月30日までに契約締結した場合の非課税限度額は,良質家屋で1,200万円・それ以外で700万円です。

 

次に,10月1日以後に契約締結した場合の非課税限度額ですが,こちらは適用される消費税率により異なり,適用される消費税率が8%の場合は9月30日までと同様に良質家屋で1,200万円・それ以外で700万円ですが,適用される消費税率が10%の場合には,良質家屋で3,000万円・それ以外で2,500万円と大幅に拡充されています。

 

非課税限度額が拡充されたのは納税者にとって有利であることは間違いありませんが,それとともに制度が複雑化しておりますので,確実に非課税の適用を受けるためには,契約締結日,物件引渡日及び贈与実施日につき,これまで以上に計画的に対応する必要があります。

 

仮に,要件を満たすことができず非課税の適用を受けられなかった場合には,改正前よりも多額の納税を迫られることになりかねませんのでご注意下さい。

同族会社に土地を低額譲渡した場合の課税関係

2016-01-28(木) 13:50:55

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同族会社の社長が,様々な理由から自己が所有している土地を当該同族会社に譲渡することは間々あります。

この時,土地を譲渡することにより生ずる譲渡所得税を少なくしようと,意図的に時価よりも安い金額設定で譲渡することがありますが,その場合の課税関係はどうなるでしょうか。以下,概略をご説明します。

 

 

<事例>

・譲渡した土地の譲渡時における時価は約1億円

・実際にやり取りした譲渡対価は4千万円

・A社の株主は甲社長と乙(甲の親族)の2人で株式の所有割合はそれぞれ1/2

 

 

<土地を譲渡した甲社長の課税関係>

個人が,法人に対して,著しく低い価額の対価(譲渡時における時価の1/2未満)で,譲渡所得の起因となる資産を移転した場合には,その譲渡所得の金額の計算については,その譲渡の時における時価で譲渡したものとみなすこととされています(所法59①二,所令169)。

したがって,甲社長は時価1億円の土地をその1/2未満である4千万円で法人に譲渡しているため,譲渡対価は4千万円であっても,1億円で譲渡したものとみなして譲渡所得の計算を行うことになります。

 

 

<土地を購入したA社の課税関係>

法人が,時価よりも低い価額で資産を譲り受けた場合には,譲受価額と時価との差額に相当する金額は寄付を受けたものとして収益として課税されます(法法22②)。

したがって,A社は時価1億円の土地を4千万円で譲り受けているので,差額の6千万円は収益として課税対象となります。仕訳は以下の通りです。

(借方)  土  地   1億円   (貸方)  現金預金  4千万円
 受贈益  6千万円

 

 

<株主乙の課税関係>

上記土地売買の直接の当事者でない株主乙に対しても課税関係は生じます。

すなわち,A社は,時価よりも著しく低い価額で土地を取得しているので,これによりA社の株価は上昇します。A社の株価が上昇しますと,乙自身は何もしていなくとも,乙が所有しているA社の株価が上昇したので,乙は利益を得たとみることができます(株を転売して利益を得られます)。

相続税法は,対価を支払わないで利益を受けた場合においては,当該利益を受けた時において,当該利益を受けた者が,当該利益の価額に相当する金額を,当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす,と規定しています(相法9)。

つまり,乙は間接的に甲から贈与により利益を取得したとみなされて贈与税が課税されます。

 

 

 

このように,譲渡所得税が少なくなるどころか,かえって売主買主双方の税負担が大きくなり,しかも直接の当事者でない他の株主にまで課税関係が生ずる結果になってしまいました。

ちなみに,この著しく低い価額の対価で譲渡した場合の「みなし譲渡課税」は,個人が法人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合に適用される規定であり,個人が個人に対して著しく低い価額の対価で譲渡した場合には適用されません。

但し,譲渡時の時価と実際の対価との差額に相当する金額につき,贈与税課税があることは先の法人の場合と同様です。

税法の世界では,所得税も法人税も相続税も贈与税も,基本的には全て「時価」を基準に考えますので,それよりも高い金額で取引しても安い金額で取引しても,何らかの課税関係が生ずると考えておけば,そう間違いはないと思います。