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賃貸マンションが空室だと相続税が高くなる不思議

2018-11-08(木) 09:15:24

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相続税対策として一棟ものの賃貸マンションを購入するとき,空室がある物件よりも満室の物件の方が人気が高く,値段も高いのが一般的ですが,税の世界では異なります。

相続税における財産評価の方法を定めた財産評価基本通達26では,賃貸マンション等の敷地(これを貸家建付地といいます)の評価方法について,次のように定めています。

 

貸家建付地の価額=自用地評価-自用地評価×借地権割合×借家権割合×賃貸割合

 

上記算式の最後の「賃貸割合」は課税時期(相続発生時)において賃貸している戸数の床面積/総戸数の床面積で算出しますので,課税時期において満室であれば賃貸割合は100%ですが,10室のうち2室が空室の場合は賃貸割合は80%となり,算式上,空室がある方が評価額が高くなります。

 

これは,ある土地を評価する場合に,自分で利用している場合よりも,その上の家屋に他人が居住している場合の方が,ある程度その他人の支配権が及んでいるのでその他人の支配権部分を控除して評価するのが妥当であるとの考え方によります。

 

ちなみにこの考え方には賛否両論あり,課税時期において一時的に空室があった場合に満室の場合よりも評価額が高くなるのは不合理であるという意見もあれば,更地にして売却することを前提とした場合には空室が多い方が都合がよく評価額が高くなることに一定の合理性があるという意見もあります。

 

ところで,この賃貸割合は課税時期における現況により算出するのが原則ですが,普段は賃貸しているのに課税時期においてたまたま一時的に空室が生じてしまったような場合にまで原則通り賃貸割合を算出することは,不動産の取引実態等に照らし,必ずしも実情に即したものとはいえません。

 

そこで,継続的に賃貸されていたマンション等で,例えば次のような事実関係から,マンション等の一室が課税時期において一時的に空室となっていたに過ぎないと認められるものについては,課税時期において賃貸されていたものとして取扱ってよいことになっています。

  1. 各部屋が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。
  2. 賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われていること。
  3. 空室の期間中,他の用途に供されていないこと。
  4. 賃貸されていない時期が,課税時期の前後の例えば1ヶ月程度であるなど一時的な期間であること。
  5. 課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。

 

上記各条件は,財産評価基本通達逐条解説(大蔵財務協会・平成30年)や国税庁HPに記載されているものですが,4の賃貸されていない時期が1ヶ月程度というのはやや現実的ではなく,次の入居者が決まるまで数ヶ月を要することはざらにありますので,この1ヶ月という期間を厳格に適用されると,いささか厳しすぎるという印象です。

 

この空室期間に関し,過去の裁決事例(平成20年6月12日裁決)において,単なる空室期間の長短のみで空室が一時的であるか否かを判断するのではなく,いかなる状況下においてかかる空室期間が生じていたか等の諸事情をも総合勘案して判断すべきとして,最短で2ヶ月・最長で1年11ヶ月の間空室であったものの,この全ての期間が一時的に空室になったに過ぎないと判断したものがあります。(逆に,最短で5ヶ月・最長で59ヶ月の間空室であったものは一時的な空室ではないと判断された裁判例(大阪地裁H28.10.26判決)もあります。)

 

相続税対策に限らず賃貸マンションを購入するほぼ全ての人が空室率の低い物件を求めると思いますが,不動産賃貸業の収益性という視点からはもちろんのこと,相続税における財産評価という観点においても,空室率の低い物件を選定することは非常に重要です。

 

また,空室が生じてしまった場合には速やかに修繕やクリーニングを行い,次の入居者募集を行うことが,相続税における財産評価という意味においては重要になります。