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解雇した従業員に対する紛争解決金の課税関係
「解雇」とは,使用者(会社)による労働契約の解約を意味し,期間の定めのない労働契約に関して使用者が労働者(従業員)を解雇する場合には,原則として,少なくとも30日前にその予告(解雇予告)をしなければなりません。
30日前に予告をしない場合には,30日分以上の平均賃金を支払わなくてはならず,これを解雇予告手当といいます。
ところで,所得税法における退職手当等とは,「本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので,退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与」をいうのですが,解雇予告手当は,解雇すなわち退職を原因として一時に支払われるものですので,給与所得ではなく退職所得に該当します。
また,使用者の解雇という処置に対し,労働者はしばしば解雇無効を主張して,従業員としての地位の確認や未払給与及び慰謝料などの支払いを求めて訴訟を提起しますが,その解決手段として支払われる紛争解決金の課税関係については,和解調書等の具体的な内容により判断されます。
すなわち,和解等により支払われる金員のうち,「退職に伴って支給する」旨の記載があるものについては「退職所得」と判断されますし,「和解時点まで従業員としての地位を有し,会社は給与等を支払い,労働者は和解時点で退職する」旨の記載があれば,未払給与に該当する部分は「給与所得」と判断されます。
あるいは,各種ハラスメント等により,「心身に加えられた損害に起因して支払われる慰謝料その他損害賠償金」や「相当の見舞金」に該当するものは,非課税となります。
ただし,見舞金のうち「相当の見舞金」を超える部分の金額は,一時的に受けるものについては「一時所得」に該当し,経常的に受けるものについては「雑所得」に該当します。
この場合において,いずれの所得に該当するかは,和解調書等の記載内容の文言のみならず,そこに至る過程である訴状,答弁書,準備書面といった裁判資料の内容を基に,紛争解決金が確定するまでの全ての諸事実を総合勘案した上で,実態に沿った判断がなされることに留意する必要があります。
次に,使用者側の源泉徴収義務についてですが,給与所得又は退職所得に該当する紛争解決金については,通常のこれらの所得と同様に,所得税等を源泉徴収する必要があります。
退職所得の場合には,退職者から「退職所得の受給に関する申告書 兼 退職所得申告書」(以下,単に「退職所得の受給に関する申告書)の提出を受けている場合と受けていない場合とで取扱いが異なります。
「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合には,原則として,退職手当等から退職者の勤続年数に応じた退職所得控除額を控除し,その残額に1/2を乗じて課税退職所得金額を算出し,その課税退職所得金額に応じた所得税を源泉徴収することになります。
この場合,退職者本人の退職金に関する課税関係は源泉徴収だけで終了し,確定申告する必要はありません。
一方,「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合には,退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じた所得税(復興特別所得税を含む)を源泉徴収します。
この場合,退職者は高い税率で所得税を源泉徴収されているので,その者の他の所得の状況にもよりますが,一般的には確定申告をすることにより所得税の還付を受けることができます。
住民税についても特別徴収(住民税の場合は源泉徴収ではなく特別徴収といいます)が必要ですが,その方法は,原則として,上記所得税の場合における「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けている場合と同様です。
税率は市民税6%,県民税4%です。
ただし,住民税の場合には,「退職所得の受給に関する申告書」の提出を受けていない場合であっても,当該申告書の提出を受けている場合と同様の計算方法となります。
特別徴収した住民税の納付先は,退職金の支払われる日(通常は退職年月日)が属する年の1月1日において退職者が居住していた市区町村です。
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配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者に対する相続税については,
①同一世代間における財産の移転であること,
②配偶者は被相続人の遺産の形成に寄与していること,
③被相続人の死亡後における生存配偶者の生活保障を考慮する必要があること,
などの理由により,軽減措置が講じられています。
<配偶者の相続税額の軽減額の計算方法>
計算方法の概要は次のとおりです。
相続税の総額 × A/B
A=課税価格の合計額のうち配偶者の法定相続分相当額(1億6千万円に満たない場合には1億6千万円)と配偶者の実際取得額とのうちいずれか少ない方の金額
B=課税価格の合計額
よって,配偶者は取得財産が1億6,000万円までは相続税は課税されません。
あるいは,相続財産のうち法定相続分(多くは1/2)までは相続税は課税されません。
この場合の「配偶者の法定相続分」は,相続の放棄があった場合でも,その放棄がなかったものとした場合における相続分をいいます。
<配偶者の範囲>
配偶者は,その被相続人との婚姻について,婚姻の届出をしている者に限られます。
事実上婚姻関係と同様の事情にある者であっても婚姻の届出をしていないいわゆる内縁関係にある者は含まれません。
<税額軽減の計算の基礎となる財産>
また,「配偶者の実際取得額」は,原則として,相続税の申告書の提出期限までに分割されていない財産は含まれません。
ただし,その分割されていない財産が申告期限から3年以内に分割され配偶者が取得した場合,又は3年を経過するまでに分割されなかったことにつき相続又は遺贈に関し訴えの提起がされたなどのやむを得ない事情があり,これにつき税務署長の承認を受け,その事情が解消した日の翌日から4か月以内に分割されて配偶者が取得した場合には,「配偶者の実際取得額」に含まれます。
実務的には,申告期限までに分割されていない財産(未分割財産)がある場合には,その未分割財産を含めないところで配偶者の相続税額の軽減を適用した相続税の申告書を提出及び納税し,その後,申告期限から3年以内にその未分割財産が分割された場合,又は,やむを得ない事情が解消された場合で,その財産について配偶者の相続税額の軽減の適用を受ける場合には,更正の請求を行うこととなります。
<隠ぺい又は仮装行為があった場合>
その相続に係る相続税の納税義務者が,被相続人の配偶者の課税価格の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し、その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき相続税の申告書を提出し,又は提出していなかった場合において,その配偶者が相続税の調査があったことにより更正又は決定があるべきことを予知して期限後申告書又は修正申告書を提出するときは,これらの申告書に係る相続税額について,配偶者の相続税額の軽減を適用する場合には,その隠ぺいし,又は仮装した財産を含めないで計算します。
これにより,隠ぺい又は仮装した財産については,配偶者の相続税額の軽減は適用されないこととなります。
<申告手続と添付書類>
配偶者に対する相続税額の軽減の適用を受けるためには,相続税の申告書(期限後申告書及び修正申告書を含む)又は更正の請求書にその適用を受ける旨及びその計算に関する明細を記載し,次に掲げる書類を添付して提出しなければなりません。
この軽減により納税額がゼロとなる場合であっても同様です。
①遺言書の写し,遺産分割協議書の写し(当該協議書に全共同相続人及び包括受遺者が自署し,自己の印を捺印しているものに限る),その他の財産の取得の状況を証する書類(生命保険金や退職金の支払通知書など)
②遺産の全部又は一部に未分割財産がある場合には,その旨並びに分割されていない事情及び分割の見込みの詳細を記載した書類(申告期限後3年以内の分割見込書)
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償却資産税について
固定資産税は,土地,家屋及び償却資産という3種類の固定資産を課税客体とし,その所有者を納税義務者として,当該固定資産の所在する各市町村(東京都特別区は東京都)が課する地方税です。
土地及び建物は概ね不動産登記法におけるこれらの定義と同義ですが,償却資産という名称は一般的にはあまり馴染みがないかも知れません。
地方税法における償却資産とは,土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産で,その減価償却費が必要経費に算入されるもののうち,その取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産以外のものをいいます。
ただし,無形減価償却資産及び自動車税の課税客体である自動車並びに軽自動車税の課税客体である軽自動車等は除かれます。
言い回しがやや複雑な条文となっていますが,要するに土地及び建物以外の事業用資産全般であり,その種類と具体例は次のとおりです。
1.構築物(建物附属設備を含む)
(1)舗装路面,庭園,門・塀・緑化施設等の外構工事,看板(広告塔等),ゴルフ練習場設備等
(2)建物所有者が取り付けた建物附属設備のうち受変電設備,予備電源設備,中央監視制御装置等
(3)テナントが賃借している家屋に施工した内装等
2.機械装置
3.船舶
4.航空機
5.車両及び運搬具
6.工具,器具及び備品
事務机,事務椅子,陳列ケース,テレビ,パソコン,プリンター,ルームエアコン,応接セット,レジスター,自動販売機,金庫,ゲーム機器等
償却資産に課される固定資産税を,通称,償却資産税といいますが,償却資産税は土地や家屋に課される固定資産税とは異なり,自らが償却資産をその取得価額とともに申告する必要があります。
ところで,家屋には,電気設備,給排水設備,衛生設備,空調設備,運搬設備等の建築設備(家屋と一体となって家屋の効用を高める設備)が取り付けられていますが,これらは家屋として固定資産税が課されるものと,先の具体例に示したとおり償却資産として償却資産税が課されるものとがありますので,償却資産を申告する際には,家屋として固定資産税が課される建物附属設備を申告しないように注意が必要です。
建物附属設備のうち,何が家屋評価に含まれて何が償却資産として申告すべきかの判断は難しいのですが,家屋内部にある設備は家屋評価に含め,家屋内部には設置されない設備及び屋外設備は償却資産として申告が必要と考えて概ね良さそうです。
実務的には各市町村が用意している償却資産申告の手引き等を参考に判断しますが,一定規模以上の事業用ビル等の場合には,建物完成時に市町村役場の固定資産税課等と協議し,各設備が家屋評価に含まれるのか償却資産に該当するのかの確認をして,その後の申告に備えたりします。
なお,テナント等の賃借人が取り付けた事業用の内装・造作及び建築設備等については,全て償却資産として取扱われます。
次に,「その取得価額が少額である資産その他の政令で定める資産」は償却資産から除かれるのですが,具体的には次のとおりです。
・取得価額10万円未満の資産のうち一時に損金算入したもの
・取得価額20万円未満の資産のうち3年間で一括償却したもの
・一定のリース資産のうち取得価額が20万円未満のもの
なお,中小企業特例(青色申告法人である中小企業者等が取得した取得価額30万未満の減価償却資産は一時の損金に算入できるという特例)を適用して損金算入した資産は上記の少額の減価償却資産には該当しないため,償却資産の申告が必要となります。
また,取得価額10万円未満又は20万円未満であっても,一時の損金算入又は一括償却を選択せずに個別減価償却を選択した資産についても,償却資産の申告が必要となります。
償却資産税は地味な税目ですが,法人税や所得税の取扱いと連動する事項が多く,意外と複雑な部分もあるので申告する際には注意が必要です。
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法人税における減価償却資産の取扱い
事業などの業務の用に供される建物,建物附属設備,機械装置,器具備品,車両運搬具などの資産は,一般的には時の経過等によってその価値が減少していきます。
このような資産を減価償却資産といいます。
<通常償却>
減価償却資産を取得した場合,税務上,その取得価額はもちろん損金(必要経費)になりますが,取得した時にその全額が一時に損金になるわけではなく,その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して損金にする(償却する)という考え方をします。
そして,その使用可能期間については国税庁が各資産につき法定耐用年数というものを公表しており,原則としてその年数により償却することになります。
<少額特例>
ただし,いくつか例外的な取扱いがあり,まず,法人が取得した減価償却資産で取得価額が10万円未満であるもの(貸付けの用に供したものを除く)又は使用可能期間が1年未満であるものについては,その業務の用に供した時にその取得価額の全額を損金経理することにより損金の額に算入することができます。
ここで「貸付けの用に供したものを除く」となっている理由は,ドローンなどの10万円未満の資産を大量に購入して一時の損金とし,その後これを賃貸して収益を得ることで,実質的に課税の繰延べを行うといった租税回避行為が横行したため,これを規制するために貸付け資産は一時の損金とすることができなくなりました。
なお,貸付け資産であっても,それが主要な事業である場合は一時の損金算入が認められます。
<一括償却>
次に,法人が取得した減価償却資産で取得価額が20万円未満のものについては,その資産の全部又は特定の一部を一括し,その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の1/3に相当する金額を,その業務の用に供した事業年度以後3年間の各事業年度において損金の額に算入することができます。
なお,上記と同様に,取得価額が20万円未満であっても貸付けの用に供したものは除かれます(主要な事業である場合には損金算入OKです)。
また,一括償却を選択した資産につき滅失や除却などの事実が生じた場合であっても,除却損として一時の損金とすることはできず,3年償却の損金算入計算を継続する必要があります。
<中小企業特例>
次に,青色申告法人である中小企業者等が令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に取得した減価償却資産で取得価額が30万円未満のものについては,その取得価額の合計額が300万円に達するまでは,その業務の用に供した事業年度において一時の損金の額に算入することができます(中小企業特例)。
なお,ここでもやはり貸付けの用に供したものは除かれます(主要な事業である場合には損金算入OKです)。
以上をまとめると,減価償却資産の取扱いは次のようになります。
取得価額 | 使用可能期間 | |
一年未満 |
一年以上 |
|
10万円未満 | ・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
10万円以上
20万円未満 |
・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
20万円以上
30万円未満 |
・通常償却
・少額特例 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・中小企業特例 が選択可能 |
30万円以上 | ・通常償却
・少額特例 が選択可能 |
・通常償却のみ |
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法人が貸付けを行った場合の税務上の取扱い
様々な理由から法人が取引先や関連会社,役員や使用人に対し金銭の貸付けを行うことがありますが,その貸付利息に係る税務上の取扱いは次のとおりです。
1.法人に対する貸付け(原則的取扱い)
法人税法では「有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」は全て益金の額に算入すると定めていますので,原則として,無利息又は低利貸付により受けた利益については益金として法人税が課税され,無利息又は低利貸付をした側は寄付金と認定され,その損金計上が制限されます。
ゆえに合理的な利率を設定する必要があります。
この場合において,何をもって合理的な利率とするかは難しいところですが,一般的に,貸付けを行う法人における借入金の平均調達金利による貸付けは合理的な利率であると判断されます。
2.法人に対する貸付け(子会社等を再建する場合)
法人が子会社等に対して無利息又は低利貸付をした場合であっても,その無利息貸付等が,例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付等をしたことについて相当な理由があると認められるときは,その無利息貸付等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に算入されません。
3.法人に対する貸付け(災害等の場合)
法人が災害を受けた取引先に対して無利息又は低利貸付をした場合において,当該貸付けが取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは,当該貸付けは正常な取引条件に従って行われたものとされ,その無利息貸付等により供与する経済的利益の額は寄附金の額に算入されません。
4.役員又は使用人に対する貸付け
原則として,法人に対する貸付けの場合と同様に,役員又は使用人に対して無利息又は低利貸付を行った場合には,その貸付けにより役員又は使用人が受けた経済的利益の額が役員報酬(もしくは役員賞与)又は給与として所得税が課税されます。
ただし,次に掲げる経済的利益については課税されません。
(1) 災害,疾病等により臨時的に多額な生活資金を要することとなった役員又は使用人に対し,その資金に充てるために貸し付けた金額につき,その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける経済的利益
(2) 役員又は使用人に貸し付けた金額につき,使用者における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め,これにより利息を徴している場合に生じる経済的利益
(3) (1)及び(2)の貸付金以外の貸付金につき受ける経済的利益で,その年(使用者が事業年度を有する法人である場合には,その法人の事業年度)における利益の合計額が5,000円以下のもの
なお,無利息又は低利貸付を行った場合における経済的利益の額は,法人が収受すべき利息と実際に収受した利息との差額になりますが,法人が収受すべき利息の計算については,当該金銭が法人において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には当該借入金の利率により計算し,その他の場合には貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法第93条第2項《利子税の割合の特例》に規定する利子税特例基準割合による利率により計算します。
ちなみに,令和4年~令和7年における利子税特例基準割合は0.9%です。