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法人税における減価償却資産の取扱い
事業などの業務の用に供される建物,建物附属設備,機械装置,器具備品,車両運搬具などの資産は,一般的には時の経過等によってその価値が減少していきます。
このような資産を減価償却資産といいます。
<通常償却>
減価償却資産を取得した場合,税務上,その取得価額はもちろん損金(必要経費)になりますが,取得した時にその全額が一時に損金になるわけではなく,その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して損金にする(償却する)という考え方をします。
そして,その使用可能期間については国税庁が各資産につき法定耐用年数というものを公表しており,原則としてその年数により償却することになります。
<少額特例>
ただし,いくつか例外的な取扱いがあり,まず,法人が取得した減価償却資産で取得価額が10万円未満であるもの(貸付けの用に供したものを除く)又は使用可能期間が1年未満であるものについては,その業務の用に供した時にその取得価額の全額を損金経理することにより損金の額に算入することができます。
ここで「貸付けの用に供したものを除く」となっている理由は,ドローンなどの10万円未満の資産を大量に購入して一時の損金とし,その後これを賃貸して収益を得ることで,実質的に課税の繰延べを行うといった租税回避行為が横行したため,これを規制するために貸付け資産は一時の損金とすることができなくなりました。
なお,貸付け資産であっても,それが主要な事業である場合は一時の損金算入が認められます。
<一括償却>
次に,法人が取得した減価償却資産で取得価額が20万円未満のものについては,その資産の全部又は特定の一部を一括し,その一括した減価償却資産の取得価額の合計額の1/3に相当する金額を,その業務の用に供した事業年度以後3年間の各事業年度において損金の額に算入することができます。
なお,上記と同様に,取得価額が20万円未満であっても貸付けの用に供したものは除かれます(主要な事業である場合には損金算入OKです)。
また,一括償却を選択した資産につき滅失や除却などの事実が生じた場合であっても,除却損として一時の損金とすることはできず,3年償却の損金算入計算を継続する必要があります。
<中小企業特例>
次に,青色申告法人である中小企業者等が令和6年4月1日から令和8年3月31日までの間に取得した減価償却資産で取得価額が30万円未満のものについては,その取得価額の合計額が300万円に達するまでは,その業務の用に供した事業年度において一時の損金の額に算入することができます(中小企業特例)。
なお,ここでもやはり貸付けの用に供したものは除かれます(主要な事業である場合には損金算入OKです)。
以上をまとめると,減価償却資産の取扱いは次のようになります。
取得価額 | 使用可能期間 | |
一年未満 |
一年以上 |
|
10万円未満 | ・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
10万円以上
20万円未満 |
・通常償却
・少額特例 ・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・一括償却 ・中小企業特例 が選択可能 |
20万円以上
30万円未満 |
・通常償却
・少額特例 ・中小企業特例 が選択可能 |
・通常償却
・中小企業特例 が選択可能 |
30万円以上 | ・通常償却
・少額特例 が選択可能 |
・通常償却のみ |
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法人が貸付けを行った場合の税務上の取扱い
様々な理由から法人が取引先や関連会社,役員や使用人に対し金銭の貸付けを行うことがありますが,その貸付利息に係る税務上の取扱いは次のとおりです。
1.法人に対する貸付け(原則的取扱い)
法人税法では「有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供,無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」は全て益金の額に算入すると定めていますので,原則として,無利息又は低利貸付により受けた利益については益金として法人税が課税され,無利息又は低利貸付をした側は寄付金と認定され,その損金計上が制限されます。
ゆえに合理的な利率を設定する必要があります。
この場合において,何をもって合理的な利率とするかは難しいところですが,一般的に,貸付けを行う法人における借入金の平均調達金利による貸付けは合理的な利率であると判断されます。
2.法人に対する貸付け(子会社等を再建する場合)
法人が子会社等に対して無利息又は低利貸付をした場合であっても,その無利息貸付等が,例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付等をしたことについて相当な理由があると認められるときは,その無利息貸付等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に算入されません。
3.法人に対する貸付け(災害等の場合)
法人が災害を受けた取引先に対して無利息又は低利貸付をした場合において,当該貸付けが取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは,当該貸付けは正常な取引条件に従って行われたものとされ,その無利息貸付等により供与する経済的利益の額は寄附金の額に算入されません。
4.役員又は使用人に対する貸付け
原則として,法人に対する貸付けの場合と同様に,役員又は使用人に対して無利息又は低利貸付を行った場合には,その貸付けにより役員又は使用人が受けた経済的利益の額が役員報酬(もしくは役員賞与)又は給与として所得税が課税されます。
ただし,次に掲げる経済的利益については課税されません。
(1) 災害,疾病等により臨時的に多額な生活資金を要することとなった役員又は使用人に対し,その資金に充てるために貸し付けた金額につき,その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける経済的利益
(2) 役員又は使用人に貸し付けた金額につき,使用者における借入金の平均調達金利など合理的と認められる貸付利率を定め,これにより利息を徴している場合に生じる経済的利益
(3) (1)及び(2)の貸付金以外の貸付金につき受ける経済的利益で,その年(使用者が事業年度を有する法人である場合には,その法人の事業年度)における利益の合計額が5,000円以下のもの
なお,無利息又は低利貸付を行った場合における経済的利益の額は,法人が収受すべき利息と実際に収受した利息との差額になりますが,法人が収受すべき利息の計算については,当該金銭が法人において他から借り入れて貸し付けたものであることが明らかな場合には当該借入金の利率により計算し,その他の場合には貸付けを行った日の属する年の租税特別措置法第93条第2項《利子税の割合の特例》に規定する利子税特例基準割合による利率により計算します。
ちなみに,令和4年~令和7年における利子税特例基準割合は0.9%です。
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基礎控除の特例
「手取りを増やす」というキャッチフレーズで昨年末から大きな話題となっているいわゆる103万円の壁ですが,ようやく改正されそうです。ただし,時限的です。
令和7年度の税制改正法案が,「基礎控除の特例」の創設を盛り込んだ与党の修正案を反映し,衆議院で可決されました。
税制改正法案が国会審議により修正されるのは異例で,29年ぶりだそうです。
改正内容は後述しますが,まずは,現在の所得税の課税最低限である103万円の壁を確認します。
サラリーマンやパート・アルバイトなどの給与所得者が収受する給与収入については,収受した金額にいきなり所得税の税率を乗ずるわけではなく,まずは,その収入金額に応じた給与所得控除額を控除します。
この給与所得控除額の最低金額が55万円です。
給与収入-給与所得控除額(最低55万円)=給与所得
次に,かつては全納税者に適用があった所得控除の一つである基礎控除の最高金額が48万円です。
現在は所得金額に応じて最高48万円から最低ゼロ円までとなっています。
よって,給与所得者の場合は上記55万円と48万円を合計した103万円までは所得税が課税されないので,この課税最低限が103万円の壁といわれています。
給与所得-所得控除=課税所得金額(A)
A=ゼロが課税最低限である103万円の壁
今回の基礎控除の特例は,与党改正案の公表資料によれば,「低所得者層の税負担に対して配慮する観点や,物価上昇に賃金上昇が追いついていない状況を踏まえ,中所得者層を含めて税負担を軽減する観点から,所得税の基礎控除の特例を創設」するとのことで,改正後の基礎控除額は,それぞれの合計所得金額に応じ次のとおりとなる予定です。
①合計所得金額132万円以下
現行48万円+改正47万円=基礎控除額95万円
②合計所得金額132万円超336万円以下
現行48万円+改正40万円=基礎控除額88万円
③合計所得金額336万円超489万円以下
現行48万円+改正20万円=基礎控除額68万円
④合計所得金額489万円超655万円以下
現行48万円+改正15万円=基礎控除額63万円
⑤合計所得金額655万円超2,350万円以下
現行48万円のまま
⑥合計所得金額2,350万円超
現行48万円からゼロ円のまま
この改正により,これまで103万円だった課税最低限は,給与所得控除額65万円(※)+基礎控除額95万円=160万円になるとのことです。
(※)給与所得控除額も今回の改正により最低55万円から65万円に引き上げられます(しかしながら,これはもともと令和元年まで最低65万円だった給与所得控除額を令和2年から55万円に引き下げた経緯がありますので,それを元に戻すだけのことです)。
ただし,この改正案「基礎控除の特例」は,①については恒久的措置ですが,②~④については,令和7年分及び令和8年分のみの時限的な措置となっています。
なお,与党改正案の公表資料によれば,この改正により全納税者の8割強の税負担が軽減されるそうで,単身世帯の場合で概ね2万円から3.3万円の減税となり,夫婦共働き世帯の場合で4万円から4.7万円(夫婦合算)の減税になると試算されています。
また,今回の改正案には附則として「政府は,我が国の経済社会の構造変化を踏まえ,各種所得の課税の在り方及び人的控除をはじめとする各種控除の在り方の見直しを含む所得税の抜本的な改革について検討を加え,その結果に基づき,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」「前項の検討に当たっては,(中略)物価の上昇等を踏まえて基礎控除等の額を適時に引き上げるという基本的方向性により,具体的な方策を検討するものとする」と追記したことも注目されています。
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医療費控除について
その年1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族にかかる医療費を支払った場合には,次の算式で計算した金額のうち200万円までの金額の所得控除を受けることができます。
算式:医療費の額-保険金等で補填される金額-総所得金額等の5/100(※)=医療費控除額
※総所得金額等×5/100>10万円の場合は10万円
医療費の額とはその年中に現実に支払った医療費をいいますから,未払となっている医療費は現実に支払われるまでは医療費控除の対象とはなりません。
クレジットカード払いの医療費は,窓口で支払った日で判断します(引き落としの日ではありません)。
「保険金等で補填される金額」とは,生命保険契約等で支給される入院費給付金,健康保険等で支給される高額療養費・家族療養費・出産育児一時金等です。
なお,保険金等で補填される金額は,その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので,引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費から差し引く必要はありません。
医療費控除の対象となる医療費の主なものは,次に掲げるもののうち,その病状等に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額です。
(1) 医師又は歯科医師による診療費又は治療費
受診するための通院費,訪問診療のための送迎費,入院若しくは入所の対価として支払う部屋代,食事代,医療用器具等の購入,賃借若しくは使用のための費用で,通常必要なものを含みます。
自己の都合で希望する特別室等の差額ベッド代は医療費に含まれません。
タクシー代は,一般的にはタクシーを利用しなければ通院できない事情等がある場合に限られます。
人間ドック,健康診断及び美容整形手術の費用は医療費に含まれません。
ただし,人間ドック等により重大な疾病が発見され,当該診断に引き続きその疾病の治療をした場合は,当該人間ドック等の費用も医療費に含まれます。
レーシック手術の費用は保険診療の対象外であっても医療費に含まれます。
(2) 治療又は療養に必要な医薬品の購入費用
疾病の予防又は健康の増進のために供される医薬品の購入費用は医療費に含まれません。
インフルエンザの予防接種費用は医療費に含まれませんが,B型肝炎ワクチンの接種費用は医療費に含まれます。
通常のメガネの購入費用,高齢者が使用する補聴器の購入費用も,一般的には医療費に含まれません。
成人用おむつの購入費用は,治療を行っている医師が発行した「おむつ使用証明書」がある場合に限り医療費に含まれます。
(3) あん摩マッサージ指圧師,はり師,きゅう師又は柔道整復師による治療を受けるための施術費
医師やマッサージ指圧師等の資格のないカイロプラクティックによる治療代やメディカルアロマセラピー等の施術代は医療費に含まれません。
リウマチ治療のためであっても単なる湯治費用は医療費に含まれません。
ただし,医師の指示でいわゆるクアハウスで温泉療法を行った場合で「温泉療養証明書」がある場合に限り医療費に含まれます。
(4) 保健師,看護師又は准看護師による療養上の世話を受けるための費用
「療養上の世話」には,保健師,看護師又は准看護師以外の者で療養上の世話を受けるために特に依頼したものから受ける療養上の世話も含まれます。
(5) 助産師による分べんの介助料
「助産師による分べんの介助」には,助産師が行う保健師助産師看護師法第3条《助産師》に規定する妊婦,じょく婦又は新生児の保健指導も含まれます。
出産に伴う費用のうち,妊婦の定期健診費用,不妊症治療費,人工授精費用及び体外受精費用等も医療費に含まれます。
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宅地評価と特定路線価について
相続税及び贈与税を申告する場合における宅地の評価は,原則として,市街地的形態を形成する地域にある宅地については「路線価方式」により,それ以外の宅地については「倍率方式」により行います。
評価しようとする宅地が路線価方式と倍率方式とのいずれにより評価するかは,各国税局が定める「財産評価基準書」に示されています。
財産評価基準書で定められている路線価及び倍率は,売買実例価額,地価公示価格,不動産鑑定士等による鑑定評価額及び精通者意見価格等を基として設定され,平成3年分までは前年の7月1日時点を評価時点とし,地価公示価格と同水準の価格の70%程度を目途に定められていましたが,平成4年分からは,評価時点を地価公示価格の評価時点にあわせてその年の1月1日とし,評価割合は80%程度に引き上げられました。
なお,評価割合が地価公示価格の80%程度とされている理由は,土地の価額には相当の値幅があることや,路線価等は相続税及び贈与税の課税に当たり1年間適用されるため,評価時点であるその年の1月1日以後の1年間の地価変動にも耐え得るものである必要があること等の評価上の安全性を配慮しているためです。
路線価は,宅地の価額がおおむね同一と認められる一連の宅地が面している路線ごとに設定され,標準的な宅地の1㎡当たりの価額(千円単位)で示されています。あくまでも標準価額ですので,実際に評価する宅地が上記標準的な宅地と状況や形状等が異なる場合には,その標準価額を基礎として画地調整を行う必要があります。
なお,これらの画地調整を行うために,国税庁が発遣している「相続税財産評価に関する基本通達(通称:財産評価基本通達)」において,各種補正率が定められています。
財産評価基準書の「路線価図」や「評価倍率表」はインターネットで公表されており,令和7年1月時点では平成30年分から令和6年分まで確認することができます。
令和7年分については,例年にならえば7月初旬に公表されるものと思われます。
ところで,財産評価基準書や財産評価基本通達における「路線」とは,不特定多数の者の通行の用に供されている道路をいうものとされていますが,現実には特定の者のみが通行する道路(私道など)にしか接していない宅地というものも存在しますので,これらの宅地の評価をどうするのか,という問題があります。
そこで,財産評価基本通達では,路線価地域内において,路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価する必要がある場合には,当該道路を路線とみなして当該宅地を評価するための路線価を,納税義務者からの申出等に基づき設定することができる,と定めています。これを「特定路線価」といいます。
この特定路線価は,その特定路線価を設定しようとする道路に接続する路線及びその道路の付近の路線に設定されている路線価を基に,その道路の状況,地区の別等を考慮して,税務署長が評定します。
なお,特定路線価は,路線価の設定されていない道路のみに接している宅地を評価するための路線価であることから,路線価の設定されていない道路と路線価の設定されている道路(路線)とに接している宅地の評価に当たっては,その路線価の設定されていない道路に設定された特定路線価についての「側方路線影響加算」,「二方路線影響加算」又は「三方又は四方路線影響加算」の適用はありません(財産評価基本通達では正面のみが道路に接している宅地よりも,側面や裏面なども道路に接している宅地の方が評価が高くなりますが,これらを考慮しない,という意味です)。
特定路線価の設定を申出る場合には「特定路線価設定申出書」を提出することになりますが,その提出先は原則として納税地を所轄する税務署です。
回答を得られるまでに1か月程度は要しますので,申告期限までに間に合うよう余裕をもって申出をする必要があります。
また,実務的には,特例路線価が設定された場合には,必ずその特定路線価を使用して評価しなければならないと考えられています。
特定路線価を設定してもらいながら他の方法で評価すると,特定路線価による評価額に修正するよう慫慂される可能性が高いので注意が必要です。