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土地の使用貸借契約における課税関係

2023-05-01(月) 20:50:52

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第三者間で建物所有を目的として土地の貸し借りを行う場合,権利金の支払いが一般的となっている地域においては,借主は借地権の設定の際に借地権の設定の対価として権利金などの一時金を支払い,その後,賃貸借期間に応じて地代を支払うのが一般的です。

 

しかしながら,例えば,親子,夫婦,兄弟などの親族間において土地の貸し借りを行う際には,わざわざ権利金や地代の額を決めて土地の賃貸借を開始するケースは稀であり,借地借家法に規定する借地権のような強い権利は意識しておらず,更新料や立退料はもとより,地代さえ無償とする場合が多いと思われます。

 

このような「当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる」契約を使用貸借といいますが,かつての課税実務においては,上記のような親族間における土地の使用貸借契約についても,その使用段階で借地権の移転(贈与)があったものとして,贈与税の認定課税がなされていました。

 

しかし,大阪地裁昭和43年11月25日判決(税資53号892頁)が,使用貸借は無償の使用関係として交換経済の埒外にあるためその使用借権は微弱であると判示したことを契機として,その後の課税実務においては,かかる使用借権を零として取扱うこととし,贈与税の認定課税はなされないこととなりました。

 

これは,昭和48年に国税庁が発遣した個別通達「使用貸借に係る土地についての相続税及び贈与税の取扱いについて」において,「建物又は構築物の所有を目的として使用貸借による土地の借受けがあった場合においては,借地権の設定に際し,その設定の対価として通常権利金その他の一時金を支払う取引上の慣行がある地域においても,当該土地の使用貸借に係る使用権の価額は,零として取り扱う。」と明記されています。

 

なお,当該個別通達は,「この取扱いは,個人間の貸借関係の実情を踏まえて定めたものであるから,当事者のいずれか一方が法人である場合のその一方の個人については,原則として,従来どおり法人税の取扱いに準拠して取り扱うこととなることに留意されたい。」としており,主に利益を追求する集団である法人が介在する場合には,借地権設定の段階で個人についても贈与税課税が有り得ることを示唆しています。

 

また,「土地の借受者と所有者との間に当該借受けに係る土地の公租公課に相当する金額以下の金額の授受があるにすぎないものはこれに該当し,当該土地の借受けについて地代の授受がないものであっても権利金その他地代に代わるべき経済的利益の授受のあるものはこれに該当しない。」としています。

 

親族間において土地の貸し借りを行う際に,全くの無償ではなく,固定資産税相当額程度の支払いを行うことは間々ありますが,このような支払いは当該個別通達の取扱いを受けます。

 

以上が,個人間において使用貸借契約があった場合における税務上の取扱いです。

 

よって,例えば,親の土地に子供が家を建てたとしても,そこに生じる使用借権の価額は零円ですので,通常は贈与税課税の問題は生じません。その後,親が亡くなり,子がその土地を相続することとなった場合には,その土地の評価額は自用地としての評価額となります。

 

ところで,個人間の使用貸借契約がクローズアップされるのはもっぱら相続時における財産評価の場面だと思いますが,一口に使用貸借契約と言っても様々なパターンが考えられますので,その内容によっては賃貸借契約と解釈されるケースが全く無いとは言い切れません。

 

しかしながら,当事者同士が地代や権利金と称する何らかの金銭のやり取りをしたからといって,それをもって使用貸借契約ではないとすぐに判断するのは早計であり,地代や権利金といった名称に捕らわれることなく,それらの金銭が示す実態は何であるかを充分に検討する必要があります。

その契約が締結された経緯や背景,やり取りした金額の時価との比較によっては,たとえ金銭のやり取りをしていても,使用貸借契約と判断される可能性が多分にあるからです。

 

親族間における土地の貸し借りにつき借地権が認められるケースはそう多くないのでご注意下さい。

 

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