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生前贈与に関する税制改正について

2023-03-29(水) 18:29:23

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贈与税の課税制度には,原則的な課税方式である「暦年課税制度」と,一定の要件に該当する場合に選択できる「相続時精算課税制度」の2つがあり,贈与者ごとに異なる課税制度を選択できます。

 

暦年課税制度は,相続税対策として最も利用されており,贈与税の基礎控除(110万円)を活用して,将来予定されている相続税の税率よりも低い税率の範囲内で毎年贈与を繰り返し,より少ない税負担で次世代に財産を移転する方法です。

相続開始前3年以内の贈与については相続税の課税価格に加算されてしまいますが,長く贈与を続ければ相続税対策としてかなり有効です。

 

一方,相続時精算課税制度は,原則として60歳以上の父母又は祖父母から,18歳以上の子又は孫に対し財産を贈与した場合に選択できる贈与税の課税制度で,贈与税と相続税をセットで考え,贈与時には,累計贈与財産2,500万円までは贈与税を課税せず,2,500万円を超えた場合にはその超えた金額に対して一律20%の贈与税を課税し,そして,その後の相続時には,その贈与財産を相続財産に加算し,その加算した金額を基に一旦,相続税額を計算した上で,その相続税額から既に納税した贈与税額を控除して残りがあれば納税(マイナスの場合には還付)するという制度です。

 

相続時精算課税制度は,生前贈与をしても相続時に精算されてしまうため節税効果が薄く,それゆえ暦年課税制度に比し申告件数は毎年低調であり,令和元年の暦年課税制度の申告件数が約36.4万件なのに対し,相続時精算課税制度の申告件数は約4.2万件と,贈与税の全申告件数の1/10にとどまっています。

 

ところで,暦年課税制度を利用して早くから生前贈与を繰り返し,財産を次世代に移転した場合と,相続を機に財産を次世代に移転した場合とで税負担が異なるのは公平ではなく,暦年課税制度による生前贈与に対する税負担が少ないままでは相続税が持つ富の集中排除という目的を達成することができない,という根強い意見があります。

 

そこで,資産移転の時期の選択により中立的な税制を構築するため,令和5年の税制改正において,次の見直しを行うことになりました。

 

1.暦年課税制度に関する改正

改正前は相続開始前3年以内の贈与が相続税の課税価格に加算されていましたが,改正後はこの期間が7年に延長されることになりました。

延長した4年~7年の4年間の贈与については,その贈与した財産の合計額から100万円を控除した金額を相続税の課税価格に加算することになります。

 

2.相続時精算課税制度に関する改正

改正前の相続時精算課税制度では,生前贈与財産は全て相続時に相続税の課税価格に加算されていましたが,改正により相続時精算課税制度にも基礎控除110万円が創設され,毎年110万円までの贈与については相続税の課税価格に加算されないことになりました。

 

また,相続時精算課税制度の適用者が,贈与により取得した一定の土地建物がその後災害によって一定の被害を受けた場合には,本来は贈与時の金額で相続税の課税価格に加算するところ,その被害を受けた部分に相当する額を控除することになりました。

 

これらの改正は,いずれも令和6年1月1日以後に贈与により取得する財産及び同日以後に生ずる災害について適用されます。

 

これまでは,相続財産が相続税の基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えるケースでは,相続時精算課税制度は相続税の節税には寄与しないというのが一般的な考え方でしたが,今回の改正により,相続時精算課税制度にも110万円の基礎控除が創設されたことから,必ずしもそうとは限らないこととなりました。

 

どちらの制度が有利か二者択一だけでなく,場合によっては途中から相続時精算課税制度に移行した方が良いケースも予想されますので,シミュレーションした上で計画的に生前贈与を実行することをお勧め致します。

 

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