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事業承継税制とは

2017-08-24(木) 13:21:18

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ここ数年,「事業承継」という言葉を見聞きする機会が増えていると思いますが,事業承継の何が問題視されているのか,それに対処する税制はどのような制度になっているのかを以下に概観します。

 

現在,我が国の中小企業は約380万社(総企業数の99.7%)あり,そこで雇用される従業員数は約3,361万人(雇用全体の約70%)です。中小企業は,まさに日本経済の基盤を成しているといえます。

 

ところが,中小企業の多くは戦後の高度経済成長期に創業しているため,経営者の高齢化が進み,今後5年から10年程度の間に団塊世代を中心に多くの経営者が事業承継のタイミングを迎えようとしているにもかかわらず,これが円滑に進んでいない状況にあります。

この状況をこのまま放置しますと,中小企業が大量に倒産又は清算し,ひいては日本経済の衰退に繋がってしまう恐れがあるため,事業承継の円滑な実現は,日本経済の持続的な発展に必要不可欠であり,我が国の喫緊の課題であるといえます。

 

事業承継とは,より具体的にいえば後継者に事業を引き継ぐことですが,そこには,そもそも後継者がいない或いは決まっていないという問題と,後継者はいるが,事業に関連する資産を承継する際の税金が高すぎるという問題があります。

後者の問題については,「事業承継税制」と称される課税の特例が設けられて,その主な内容は以下の通りです。※ちなみに「事業承継税制」とは成文法上の用語ではなく,事業承継に関する税法上の各種取扱いの総称です。

 

1.非上場株式等についての納税猶予・免除

通常,後継者が事業を承継する際には会社の株式を承継する必要がありますが,この株式の評価額が高すぎるが故に贈与税又は相続税の負担が大きく,この税負担が事業承継の足かせになっているという問題があります。

そこで,後継者が承継した株式(非上場株式)に対する贈与税又は相続税については,一定の要件のもとに納税を猶予或いは免除する措置が設けられています。

この制度は平成20年に成立した経営承継円滑化法に基づく経済産業大臣の認定を受けて適用されるもので,贈与税については後継者が贈与により取得した株式に係る贈与税の100%の納税が猶予され,相続税については後継者が相続又は遺贈により取得した株式に係る相続税の80%の納税が猶予されます(それぞれ発行済完全議決権株式の2/3が上限)。

 

2.小規模宅地等の課税特例

個人事業に関する不動産とりわけ土地を承継する際の相続税の負担は,非上場株式を承継するのと同様に事業承継における足かせとなっており,それを軽減するべく設けられた措置がこの特例です。

この特例は昭和58年に制度創設後幾多の拡充の変遷を経て,現在は居住用宅地との併用により,最高730㎡(事業用400㎡)まで,最高80%の相続税の課税価格の軽減が行われています。

この課税特例は,前記1の納税猶予とは異なり,申告によって直ちに相続税の減額が確定しますので,その効果は非常に大きく,各種課税特例の中で最も利用件数が多くなっています。

 

3.相続時精算課税制度

この制度は,60歳以上の父・母・祖父・祖母から,20歳以上の子・孫に贈与があった場合において,累積額で2,500万円までは贈与税を課税せず,2,500万円を超える部分については20%の贈与税を課するという制度です。そして,これらの贈与と贈与税については,その贈与者の死亡に係る相続税の段階で精算課税されます。

この制度は,本来,高齢者から消費性向の高い若年層へ財産移転を促し,景気対策へも貢献させようとしたものでありますが,前記1の非上場株式等の贈与税の納税猶予との併用が認められたことにより,事業承継対策として今後一層活用されることが見込まれています。

 

税制以外の事業承継対策の手法としては,種類株式の活用,信託の活用,生命保険の活用,持株会社の設立等が注目されています。

 

(参考)税研2017年7月号