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譲渡した不動産の取得費が不明な場合の実務対応

2017-07-27(木) 16:39:44

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不動産に限らず資産を譲渡して利益が出ますと,譲渡所得として所得税が課税されます。

1,000で購入したものを1,500で譲渡した場合の譲渡所得の金額は500ですので,この500に対して所得税が課税されます。

 

譲渡所得の対象となる主な資産は,土地,借地権,建物,株式等,特定の公社債,金地金,宝石,書画,骨董品,船舶,機械器具,車両,工具備品,鉱業権,漁業権,著作権,特許権,ゴルフ会員権,取引慣行のある借家権,土砂,砂利などです。

貸付金や売掛金などの金銭債権は含まれません。これらは事業所得又は雑所得に該当します。

 

譲渡所得の対象となる「譲渡」とは,有償無償を問わず,所有権を移転させる一切の行為をいいますので,通常の売買のほか,交換,競売,公売,代物弁済,財産分与,収用,法人に対する現物出資なども含まれます。

 

さて,相続税の基礎控除額が引き下げられた平成27年から世の中は相続対策ブームですが,それを機に土地の価格が上昇していますので(※),親から相続した土地や,昔購入した土地を譲渡するという人も多いことでしょう。

 

不動産を譲渡した場合の譲渡所得の金額は,土地や建物を売った金額から,その土地や建物を取得したときの取得費と譲渡費用を差し引いて計算します。

取得費は,土地の場合,購入したときの購入代金や購入手数料などの合計額です。建物の場合は,購入代金などの合計額から減価償却相当額を差し引いた金額です。

 

しかし,譲渡した土地建物が先祖伝来のものであるとか,購入した時期が古すぎて取得費がわからないということもあります。

そのような場合には,取得費の金額を,譲渡した金額の5%相当額とすることができます(措法31の4など)。

実際の取得費が,譲渡した金額の5%相当額を下回る場合も同様です。

例えば,土地を5,000万円で譲渡した場合において,その土地の実際の取得費が不明な場合には,譲渡した金額の5%である250万円を取得費とすることができます。

 

次に,5年前とか10年前とか,それほど昔ではないものの,購入したときの資料を紛失してしまい,実際の取得費がわからないという場合ですが,この場合も,上記と同様に譲渡した金額の5%相当額を取得費とすることができます。

しかし,5年前とか10年前に購入した不動産の実際の取得費が不明だからといって,譲渡した金額の5%で取得費を計算しますと,多額の譲渡所得となり,かなり不利となります。

そこで,そのような場合には,何らかの方法で実際の取得費を推計する必要がありますが,宅地の取得費の算定については,一般財団法人日本不動産研究所が公表している市街地価格指数を基に算定する方法が合理的であると判断された裁決事例があります(H12.11.16裁決,裁決事例集No.60 208頁)。

 

市街地価格指数は,毎年の市街地の価格を指数で表しているので,当時の時価を算出する目安には最適です。

これに,購入した年の固定資産税評価額や路線価からの推計値を加味するとか,借入をして購入しているのであれば抵当権の設定金額も参考にするなどして,その推計値の根拠を肉付けしていけば,信憑性が高まり,課税上も問題とならないことでしょう。

 

尚,当初申告では5%取得費を使用し,更正の請求で推計値を使用するということも考えられますが,更正の請求の場合の立証責任は納税者側にあるため,推計値を使用するのであれば,あくまでも当初申告の段階から使用したほうがよいでしょう。

 

(※)市街地価格指数を基に算出した取得費が否認された事例(H26.3.4裁決)もありますが,当該裁決事例は採用した指数の地域が適切でなかったために否認されたものであり,適切な指数を採用していれば問題無かったものと推測します。

(※)7月1日に公開された平成29年の路線価では,路線価日本一は今年も銀座鳩居堂前でしたが,平成4年のバブル期ピークの1㎡当たり3,650万円を超え,今年は1㎡当たり4,032万円となりました。