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事業承継時に気を付けたい役員退職金の支給について

2017-02-05(日) 11:56:55

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これまで第一線でバリバリ頑張ってきた社長も気付けば65歳を過ぎ,事業承継を検討すべき60歳はとうに過ぎてしまいました。

 

早く息子などの後継者に会社経営を任せ,自分は役員退職金をもらって余生をゆっくり過ごしたい,そう考える社長は多いですが,なかなか事業承継が進まないというのは我が国が抱えた深刻な問題です。

 

半ば強引に事業承継を進めたものの,やはり会社が心配でたまらず,ちょくちょく会社に顔を出し,後継者もまた,重要な経営判断を先代に仰いでしまう,こんな光景が一般的ではないでしょうか。

 

ところがこの一般的な光景は,法人税法における役員退職金という観点からは非常に危険であると言わざるを得ません。

以下,そのご説明です。

 

役員が退任した場合に支給される役員退職金は,原則としては法人税の計算上損金の額に算入されます(費用になるということ)。

 

ところが,上記のように会社が心配でたまらない社長が,事業承継後も毎日出勤している,頻繁に後継者に助言や支援をしている,主要取引先や金融機関対応をしている,ようですと,実質的にはまだ退職したとは言えないのではないか,役員退職金を損金の額に算入して(会社の費用として)法人税を計算したが,本来は損金の額に算入できなかったのではないか,という課税上の問題が生じてしまいます。

 

確かに,法人税法基本通達9-2-32では,常勤役員が非常勤役員になった場合や,取締役が監査役になった場合などに支給する役員退職金につき,実質的に退職と同様の事情にあるときは,一定の要件のもとその損金算入を認めています。ちなみにその要件とは以下の3つです。

  • 常勤役員が非常勤役員になったこと。ただし,代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位にある者を除く。
  • 取締役が監査役になったこと。ただし,監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位にある者などを除く。
  • 役員の給与が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。ただし,その変更後においてもその法人の経営上主要な地位にある者を除く。

※いずれの場合も役員退職金の未払金経理は認められません。

 

しかし,これらの要件を形式的に充足すれば良いかというと,そんな単純な問題ではありません。

 

代表権を息子に譲った,週に3回しか出社していない,役員報酬も半分以下にした,ということであっても,課税上は常に「実態はどうなのか」というところで判断されます。

 

実態を判断するポイントとしては,会社内の稟議に関する実質的な決裁権限を有しているか,代表者が交代したことを対外的に明らかにしているか,後継者が代表者としての業務を行うだけの実績と力量を有しているか,などが挙げられます。

 

中小企業における事業承継に際しては,後継者である息子などを代表取締役に就任させ,先代は役員退職金の支給を受けつつ,会長や顧問,相談役といった名称を付して役員に残る事例が往々にしてありますが,上述した通り課税上は「実態」を問われますので,十分注意する必要があります。

 

無用なトラブルを避けるためには,できるだけ完全退職して,役員退職金は未払計上ではなく支給してしまうのが一番良いと思われます。

 

参考:月刊税理2017年1月号 P166(ぎょうせい)