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法人に貸し付けている貸付金と相続税の問題

2015-09-29(火) 08:44:36

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長年会社を経営していますと資金繰りがうまくいかず,代表者個人の資金を会社に貸し付け,そのまま回収できずにいるということはよくあることです。

 

あるいは,バブル時に積極的に不動産投資を進め,銀行借入と個人資金を会社に注ぎ込んで不動産を購入したものの,バブル崩壊とともに資産価値が目減りしてしまい,不動産を売却すれば銀行借入は返済できるが個人資金の返済はほぼ不可能という会社もよく見かけます。

 

このような状況において,最も問題となるのは個人資金を貸し付けている代表者の相続税です。

 

個人が法人へ資金を貸し付けたまま相続が発生しますと,その貸し付けた金額のうち未回収部分は「貸付金」として相続税の課税対象となります。

きちんと回収できる貸付金であれば相続税の課税対象となることに何ら問題はありませんが,回収可能性が低いのに相続税が課税されてしまうと,相続人は自己の預金から納税しなければならないという問題が生じます。

 

これに対し,相続税基本通達では一応の救済措置を設けていて,すなわち,その貸付金のうち「回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるときにおいては,それらの金額は元本の価額に算入しない」と同通達205が定めているところです。

しかしながら,課税当局の取扱いや裁判の判決事例等を考察しますと,そんなに簡単に「回収不可能」とは判断してくれません。

 

回収不可能と判断されるには,会社そのものが,手形交換所の取引停止処分を受けた,会社更生手続き開始の決定があった,民事再生法による再生手続き開始の決定があった,等といった事象が生じていることが必要であると規定されているのですが,会社の経営状態がここまで来ないと救済されないのであれば,本来の救済には全くなっておりません。

 

多くの経営者は,第三者に迷惑をかけてはいけないという思いから,金融機関などの第三者からの借入金は身銭を切ってでも返済しようとします。そして,身銭を切って返済したために会社には自己が貸し付けた貸付金だけが残ります。

ところが,それ以上の返済余力は無く,自己の貸付金の回収は一向に進まないまま時間だけが過ぎ,そのまま相続を迎えますと,回収できない貸付金という相続財産に相続税が課税されることになるのです。

先の救済措置を適用しようにも,頑張って金融機関には返済しましたので手形交換所の取引停止処分は受けてないし,会社更生手続き開始の決定等もないということで,回収不可能とは判断してもらえません。

 

このように,法人へ貸し付けた貸付金はそのまま放っておくと大きな問題となることがありますので,相続が発生する前に適切に処理しておくことが望まれます。

 

具体的には,法人に過去の欠損金が残っているような場合には,貸付金を債権放棄するという方法が考えられます。

個人が債権放棄しますと,法人は返済しなくて良くなった金額だけ贈与を受けたものとして収益が計上されますが,欠損金の範囲内であれば相殺され結果として法人税等の課税はありません。

 

或いは,貸付金を出資に変えるデット・エクイティ・スワップ(DES)という方法があります。

これは,個人の貸付金が有価証券に変わるわけですが,株価評価額は貸付金よりも低くなることが多いため,結果として相続税の軽減に繋がります。

 

いずれにしましても,法人に対する貸付金が多額にある場合は,何もしないまま放っておくと思わぬ課税を招くことがありますので,早めに対応することが賢明です。