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従業員等に対して支給した技術習得費用等の取扱い
法人の役員又は使用人が,当該法人から金銭以外の物又は権利その他経済的な利益(経済的利益)を受けた場合には,包括的所得概念の下,原則として当該経済的利益は当然に「所得」を構成することになり課税の対象となります。
しかしながら,当該経済的利益の測定(評価)は極めて困難であり,かつ,少額であることも多いため,全ての経済的利益に対して厳格に課税を行おうとすると,税務執行上,弊害が生じる可能性も否定できません。
その為,所得税基本通達(所基通)において,課税しない経済的利益がいくつか規定されています。
そのうちの一つである所基通36-29の2は,
「使用者が自己の業務遂行上の必要に基づき,役員又は使用人に当該役員又は使用人としての職務に直接必要な技術若しくは知識を習得させ,又は免許若しくは資格を取得させるための研修会,講習会等の出席費用又は大学等における聴講費用に充てるものとして支給する金品については,これらの費用として適正なものに限り,課税しなくて差し支えない。」
と規定しています。
これは,使用者がこうした費用を負担するのは,もともと使用者が使用人等にその職務遂行に必要な技術,知識等を習得させることを通じてその者の職務内容の質的向上を図るためのものであって,それによりその使用人等が知識,資格等を修得したとしても,それは,使用者等が使用人のためにその職務を遂行する過程においておのずから修得する技術,知識又はいわゆる社内研修により修得する技術,知識等と本質的に異ならないと考えられるためであり,支給する金品がその使途,金額等からみて適正なものである場合には,給与等として課税しなくて差し支えないという趣旨です。
一方,福利厚生の一環として使用者が使用人の自己啓発のため通信教育のメニューを提供し,使用人が受講した通信教育費用を負担するといった場合には,職務に直接必要なものでなければ給与として課税されます。
次に,使用者が使用人に対して学資に充てるための費用(学資金)を支給する場合がありますが,この学資金が通常の給与に加算して支給されるものである場合には非課税となりますが,本来支給すべき給与の額を減額した上で,それに相当する額を学資金として支給する場合には給与として課税されます。
ただし,学資金のうち,役員や役員と特別の関係がある者に対して支給されるもの,個人事業主の親族に対して支給されるものなどは除かれます。
なお,ここでいう学資金とは,一般に,学術又は技芸を習得するための資金として父兄その他の者から受けるもので,その目的に使用されるものをいい,金品として給付される場合だけでなく,金銭を貸与し,その後に一定の条件によりその返済を免除した場合の経済的利益も含むものとされています。
ところで,使用者が使用人に技術習得費用を支給する場合と似たような事案として,個人事業主本人が資格取得費用を支出した場合に,当該資格取得費用が必要経費に該当するか否かという問題があります。
前者では「職務に直接必要である」ことが主要な要件の一つでありますが,それは個人事業主の必要経費性においても同様であると考えられます。
例えば,整骨院を営む個人事業主が,柔道整復師養成の専門学校の授業料を必要経費に算入して確定申告したところ,当該授業料は既に営んでいる業務に直接必要とはいえないという理由で否認されました。
また,歯科医師が学位を取得するために大学院の博士課程に通った入学金や授業料は,業務に間接的に有効・有益であっても,主たる目的が新しい地位,職業の取得とされる場合には,必要経費とは認められないとされた事例もあります。
損金性又は必要経費性の要件である「職務に直接必要であること」とは,表現が抽象的であり判断が難しい場合もありますが,厳格に捉えた方が税務リスクを回避できるように思います。