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不動産譲渡における取得費が不明な場合の実務的対応

2022-04-06(水) 20:35:45

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個人が不動産を譲渡した場合における譲渡所得の金額は,収入金額から取得費及び譲渡費用を控除して求めますが,譲渡した不動産が先祖伝来のものであったり,購入時期が古すぎて資料が残っていなかったりといった理由から,取得費が不明であることは間々あります。

 

このように取得費が不明な場合には,譲渡した金額の5%相当額(概算取得費5%)を取得費とすることができます。

また,実際の取得費が概算取得費5%を下回る場合も同様です。

 

しかしながら,亡くなった両親から相続した不動産等で,資料は残っていないが常識的に考えて実際の取得費の方が概算取得費5%よりもはるかに金額が大きいといった場合にまで,取得費を概算取得費5%としてしまうと,多額の税金が発生してしまうおそれがあり,このような場合には他の実務的な対応を検討すべきです。

 

具体的には,建物については国土交通省が公表している建築着工統計の数値が参考になります。

国税庁が公表している「令和3年分 譲渡所得の申告のしかた」という冊子においても,「建物の標準的な建築価額表」としてこの数値を紹介しています。

 

「建物の標準的な建築価額」とは,国土交通省が公表している建築着工統計の「構造別:建築物の数,床面積合計,工事費予定額」を基に,1㎡当たりの工事費予定額を算出(工事費予定額÷床面積合計)したものです。

これによれば,建築年,建物の構造及び床面積がわかれば「標準的な建築価額」を算定することができ,これを基に減価償却後の取得費を算定することができます。

建築年,建物の構造及び床面積は建物の登記簿謄本(若しくは閉鎖謄本)に記載されていますので,取得時の資料が残っていない場合であっても,ほとんどのケースで取得費を算定することができます。

 

また,土地については一般財団法人日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」が参考になります。

 

「市街地価格指数」とは,全国主要198都市につき、年に2回(3月末と9月末),実際の利用形態にしたがって商業地域・住宅地域・工業地域の3つの地域に分類して不動産鑑定評価の手法に基づき更地としての評価を行い,調査時における調査地点の1㎡あたりの価格を求めて数値化したものです。

 

この指数は,例えば昨年11月に公表された「第161回「市街地価格指数」(2021年9月末現在の調査結果)」によれば,2010年3月末を100とした場合における2021年9月末時点における商業地の全国平均は87.9,商業地の東京区部平均は128.9というように,年ごとに比較ができる仕組みになっています。

 

よって,この数値を利用すれば,取得時の資料が残っていない場合であっても,譲渡した金額から取得費を推計することができます。

 

市街地価格指数以外に採用可能な変動率としては,路線価の変動率,公示価格,基準地価格の変動率,固定資産税評価額の変動率が考えられます。

 

特に路線価は国税庁が公表している数値であり,個々の土地に対する場所的同一性を担保しやすいため,変動率の信頼性は極めて高いと思われます。

ちなみに古い年の路線価は国立国会図書館で調べることが可能です。

 

このように,取得時の資料が残っておらず取得価額がわからない場合であっても,概算取得費5%を使用せずに譲渡所得の金額を計算することは可能です。

 

しかし,資料が残っていないからといって安易に推計によって取得費を算定するのは税務リスクがあると言わざるを得ないため,できる限り実額に近い取得価額を調査する必要はあります。

 

例えば,取得時の売買契約書が残っていなくても物件取得時に購入代金を振り込んだ通帳が残っていれば,それは実額に近いはずですし,借入をしていれば登記簿謄本の乙欄に抵当権が記載されているでしょうし,取得時に住宅ローン控除を適用していれば確定申告書に購入価額が記載されているはずです。

 

推計によって取得費を算定する場合であっても,こうした調査を行った上で,取得当時の相場観をある程度得られることができれば,仮に申告後に税務調査があったとしても説得力のある適切な説明を行うことが可能となり,否認されることなく税務調査を終えることができるものと思われます。

 

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