HOME >BLOG

BLOG

生計を一にする親族

2021-09-01(水) 11:52:51

カテゴリー:

所得税や相続税を計算する場合において,「生計を一にする親族」がいる場合には税負担が減少することがありますが,そもそも「生計が一である」とはどのような状態をいうのか,意外と判断が難しいこともあります。

 

所得税における配偶者控除や扶養控除は,その配偶者や親族が納税者本人と生計を一にしていること,というのが適用要件の一つになっていますが,実は所得税法には「生計を一にする」の定義規定がありません。

 

定義規定が無い場合は借用概念として他分野での定義を借用するか,あるいは社会通念上の常識で判断することになりますが,それでは判断が難しかろうという配慮か,国税庁は公式見解をHPにおいて公表しています。

 

当該HPによると,「生計を一にする」とは,

日常の生活の資を共にすることをいいます。会社員,公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学,療養などのために別居している場合でも,①生活費,学資金又は療養費などを常に送金しているときや,②日常の起居を共にしていない親族が,勤務,修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは,「生計を一にする」ものとして取り扱われます。

としています。

 

また,所得税基本通達2-47(2)では,「親族が同一の家屋に起居している場合には,明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き,これらの親族は生計を一にするものとする。」としています。

 

ちなみ,国税通則法基本通達第46条関係9及び法人税基本通達1-3-4にも「生計を一にすること」に関する説明があり,所得税基本通達と概ね同様の内容となっています。

 

したがって,「生計を一にする」とは,必ずしも一方が他方を扶養する関係にあることをいうものではなく,また,必ずしも同居していることを要するものではありません。

 

夫婦共働きであっても「生計を一にする」といえますし,単身赴任や留学等で別居していても生活費を常に送金していれば「生計を一にする」といえます(ただし,夫婦共働きの場合は生計は一であっても,所得要件により配偶者控除が適用されるか否かは別問題です)。

 

よくある質問として,年金生活となった両親を納税者本人の扶養控除の対象として良いか?というものがありますが,日常的に両親の生活費を支弁している場合には扶養親族に該当しますが,そうでない場合は「生計を一にしている」とはいえないため扶養親族に該当せず,よって,納税者本人の所得税の計算において扶養控除を適用することはできません。

 

次に相続税についてですが,相続税法にも「生計を一にする」に関する定義規定がありませんので,所得税と同様に,借用概念又は社会通念上の常識で判断することになりますが,前出の各種通達における「生計を一にする」の意義と直ちに同一に解すべきとは認められないと判断した裁決例があることは留意すべきです。

 

相続税において「生計を一にする」がクローズアップされるのは,自宅敷地の評価額が最大で8割減となる小規模宅地等の特例においてですが,核家族化が進んだ現代では相続開始時に被相続人と別居していることがほとんどであり,別居しているが生計は一であるとして無理に小規模宅地等の特例を適用し,課税当局に否認されるケースが頻出しています。

 

特に,病気等で入院している又は介護施設に入所している親を日常的に子が面倒を見ている場合に「生計を一にしている」と主張することが多いのですが,入院又は入所前に同居していない場合には,過去の判決例・裁決例では消極的に判断されています。

 

「生計を一にしている」というためには,日常生活の資を共通にしていることを要し,少なくとも居住費,食費,光熱費その他日常の生活に係る費用の全部又は主要な部分を共通にしていることを要するのですが,多くの場合,確かに子が親の日常的な身の回りの世話をしているものの,親にかかる費用は親の口座から支出するなど,はっきりと費用負担が区別されていて,それが故に生計を一にしていたとは判断されないことが多いです。

 

「生計を一にする」という用語は,各種税法で使用されているものの定義規定が無く,且つ,必ずしも同意義で使用されていないことが課税上のトラブルを惹起させていますので,その判断は慎重に行う必要があります。

 

※ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。