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相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わなかった場合の不利益

2015-04-24(金) 18:10:21

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相続税の申告と納税は,相続等により取得した財産の額の合計額が,遺産に係る基礎控除額を超えた場合に必要となります。

申告期限は,被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

よって原則的には,被相続人が亡くなってから10ヶ月以内に,全ての財産を洗い出し,その財産を一つひとつ評価して評価額を算出し,相続人全員で誰が何をもらうかを協議し(これを遺産分割協議といいます),それを基に相続税額を計算して,申告及び納税まで済ませる必要があります。

もし仮に,遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合であっても,申告期限は延長されません。その場合は,一旦,法定相続割合により分割されたと仮定して相続税額を計算し,申告及び納税をすることになります。

 

遺産分割協議が申告期限までに調わなかった場合には,申告期限までに調った場合に比べて,いくつかの弊害があります。

まずは納税資金についてですが,相続税は現金一括納付が原則なのですが,遺産分割協議が調っていないので被相続人の預貯金を下すことができず,相続人は自分の固有の財産から納税資金を工面する必要があります。

相続税には延納や物納という制度がありますが,延納を申請する場合には担保を提供しなければならず,遺産分割協議が調っていない未分割の状態での延納申請は現実的ではありません。

また,未分割財産を物納申請しても物納不適格財産ということで却下されますので,物納も現実的には不可能です。

その結果,申告期限までに遺産分割協議が調わない場合の多くは,無申告及び未納という状態になるケースが非常に多いです。ちなみに納期限から2ヶ月を経過した日以降は,原則として年14.6%の延滞税が課税されます。

 

次に,税額軽減措置についてですが,遺産分割協議が調っていない場合,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」という税額軽減措置が適用できません。

「小規模宅地等の特例」とは,被相続人や被相続人の親族が,自分の仕事場として使っていた,又は,住まいとして使っていた土地については,一定の要件の下に評価額を減額してくれる制度で,その減額割合は最高80%です。1億円の土地が2,000万円の評価額になるのですからかなりの税額軽減措置であるといえます。

また,「配偶者の税額軽減」とは,配偶者が取得する財産の価額が1億6,000万円までか,或いは配偶者の法定相続分までであれば,配偶者に相続税を課税しないという制度です。こちらもかなりの税額軽減措置です。

これらの税額軽減措置は,申告期限までに遺産が分割され,適正に申告することが要件となっていますので,未分割の状態では適用できません。

その結果,納税額が大きくなり,しかもそれが未納となりがちですので,延滞税を含めた税負担は多大なものとなります。

 

尚,10ヶ月以内に遺産分割協議が調わず,取り敢えず法定相続割合で申告及び納税を済ました場合であっても,その後において遺産分割協議が調った場合には,それが申告期限から3年以内であれば,「小規模宅地等の特例」と「配偶者の税額軽減」を適用して相続税の計算をやり直すことが可能です。

具体的には,10ヶ月以内に取り敢えずの申告をする際に,「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の申告書とともに提出しておき,3年以内に遺産分割協議が調って「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額軽減」の適用要件を満たすことが確定した段階で,「更正の請求」をすることになります。

「更正の請求」とは,税金の還付を請求する制度のことで,この場合には,遺産分割協議が確定したことを知った日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があります。

 

相続開始から10ヶ月以内に遺産分割協議が調わない場合は,申告期限から3年以内であれば後で取り戻すことができるとはいえ,一旦は多額の相続税の納税が必要となることから,元々納税資金不足であった場合には非常に大きなリスクとなります。

故に,10ヶ月以内に申告できるよう,生前から対策を検討することが賢明と言えます。